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element story ―天翔るキセキ―
女神の啓示

――と。タイガの持っていた連結魔道具が唐突に光線を放った。今の自分に連絡を寄越して来るのはリーブ達の中の誰かだろう、タイガは慌てる事なく魔道具の蓋を開けた。

『タイガ、そちらに東ギルドの人間が向かっている。今はまだ出発していないが、数時間後にはそこにやってくるだろう。…出来る限り急いでくれ』
「…ああ。了解した」
リーブからの連絡に、タイガは心臓がうるさくなるのを感じていた。

『…ヴァルトル様の指示で行かせざるを得なかった…すまない』
「…いや、仕方がない。お前も今は立場がある。気にするな」
タイガの言葉に、リーブは暫し黙考するような間を置いて。

『…東ギルド、チーム『キサラギ』。…ロック君や、今は彼女の片割れも共にいる』
「!!」

タイガは思わず息を詰まらせる。魔道具の機能上、会話の聞こえないアッシュやオブシディアンは訝しげだ。

『くれぐれも気を付けて欲しい。…じゃあ』
「ああ…」

リーブとの会話を終え、タイガは何を話していたのかを言葉少なにアッシュ達へと伝えた。

「あー、そりゃまずい。オレ、あの二人とこの前接触しちゃったんだよね」
言っている内容に反して、オブシディアンの声色は不味いと感じているようには聞こえない。
アッシュに関しては、さもどうでもいいと言った様子で無言だ。

「……急ぐぞ」

そんな二人とは違い、焦りと戸惑いを感じているタイガは歩を早めた。


(…ロック)

タイガは、ヴァルトルの息子となった少年を心に思い描く。
最後に会ったのは、二年前の集魔導祭。あの頃はまだ小さく幼い印象が強かったが、今はどうしているだろうか――…?




ひたすらに歩いていると、タイガ達は山の中腹に辿り着いた。そこは今まで狭かった道とは違い、休憩所としても利用出来そうな広さがある。

「…此処か」

タイガは静かに呟く。自然と全員が無言になった。
他の二人を置いて、タイガが僅かに前に進み出る。


何もない空間を掴むように、タイガは左手を伸ばす。
一瞬の間。伸ばした手を包むように光の粒子が飛び散り、それが音も無く消え去った頃、彼の手には一振りの大剣が握られていた。

金色の鍔や柄。それにいくつものエレメントロックが嵌め込まれている。タイガの上半身と同じ位の長さを誇り、分厚い刃は常に光を帯びて眩しく輝く。

――それは『神の与えし叡智の欠片』のひとつ。西ギルドマスターに代々受け継がれて来た『宝剣』だ。


タイガは宝剣を両手に持ち、刃を空に向ける。それはまるで、神に祈るような姿だった。

(……)

不思議な心地だ。この場で宝剣を手にした途端、タイガの心の中にはいくつもの言霊が降りて来た。神の啓示のようだと思い、すぐにそれはあながち間違いではないなと密かに笑った。


タイガは意識を集中させ、心から聞こえてくる言霊に耳を傾ける。次第に宝剣の光はタイガにまで伝わり、全身を光が帯びていく。

十分に心の中で言霊を反芻し、ついにタイガは口を開いた。


「我 女神の使いにして女神に応えし者 世界を彩る精霊達よ 我の声は女神の声 我の意思は女神の意思也 魂の人形は 今 此処に命ずる

――今 此処に 解放を与えん」


刹那。

眩い光。タイガの身体に帯びていた光が――…虹色の光の軌跡となって、それはやがて大きな陣を地に描いた。

地面一杯に描かれた虹色の陣は激しい明滅を繰り返す。そしてそれと連動するように、地面は激しい音を立てて鳴動し始めた。

「…ッ!!」

振動に立っていられず、三人は思わず地に手をつき、自分の身体を支える。それからこの鳴動が意味するものを視界に収めようと顔を上げた。



――…鳴動とともに、大地が、割れていく。

タイガ達のいる地点と、頂上までの山道が、ぱっくりと二分割されていった。



大した時間は掛からなかった。恐らく、一、二分程度。
虹色の陣が光を失い、輪郭を失い、やがて跡形もなく消えていく。それと同時に鳴動は収まり、裂けた大地も動かなくなった。


タイガ達は一斉に大地の裂け目へと駆け寄り、見下ろす。最奥はどんな事になっているのかはここからは把握出来ない。見えるのはただ、深淵を思わせる暗闇のみ。

「んじゃ、今度はオレの出番だよね」

オブシディアンが軽い口調で言い、ひとつの紡ぎ歌を唱える。

「…汝、天に仕えし風の御子。定められた契約に従い、我が呼び声に応え賜え。万物に宿る息吹よ、今此処に。

――ヴァイス-フィアーニ」


それはエリィやヴァルトルも扱う、風の使い魔を喚ぶ為のものだった。




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あきゅろす。
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