element story ―天翔るキセキ―
憎悪と狂笑
(…だが)
タイガにとって、ある意味幼いロウラやエル以上に心配なのがこの二人なのだ。一番彼等が、気がかりな面が多い。
(――殺したい程憎い奴なんていない、か…)
先程のオブシディアンの言葉を思い出す。
魔術師を殺したい程に憎み、またタイガにとっては旧友であるヴァルトルを殺しにかかったアッシュと、常に笑みを浮かべている掴み所のないオブシディアン。
この二人は性格など全く違うように見えて、ひとつ共通点がある。
それは、
(――…未来に、何の希望も抱いていない)
アッシュは、魔術師への憎しみに突き動かされて生きているようにしか見えないのだ。リーブに協力しているのも、友人に手を貸すというより『自分の望みの為』と思えて。
オブシディアンは、一言で言えば『狂っている』。楽以外の喜怒哀楽が欠落したように、何が起ころうと笑顔を浮かべているその姿には狂気を覚えた。
そして、彼の死生観もやはり狂っている。人を殺すのに容赦がなく、また自分の生にもまるで執着しない。
アッシュは憎しみにのみ生かされ、オブシディアンはいつ自分がどうなろうがまるでどうでもいい、といったスタンスなのだ。
…タイガにとって、この二人の生き方は一番頭を悩ませる。どうにかして未来に希望を見出させてやりたい、と思う。
(…これからやる事が、それに繋がれば)
リーブの思想が、実現すれば。それは叶うだろうか。
…そうだと、信じたい。
「おっさん。ずいぶん黙ってるけど、ギルドの魔術師に会いたくないとかって考えてんの?」
「……。ああ、そうだな」
まるで世間話の続きのように、オブシディアンはのんびりと問いかける。タイガはその問いに、先程までとはまた違った意味で心がずっしりと重くなるのを感じた。
この山の頂上には、土のエレメントクリスタルの群生地がある。ギルドの任務には群生地の定期調査も含まれている為、運が悪ければ出くわす事もあるだろう。
それに、だ。響界で自分やアッシュ達が、東ギルドでオブシディアンやカヤナが奪った書物の内容を鑑みれば、エレメントクリスタルの群生地に人間を送り込んで来る可能性は高い。
ヴァルトルがアッシュによって負わされた傷は、人形の片割れによって完治したとリーブから聞いた。タイガはその連絡を受けた時、酷く安堵したのを覚えている。
だが、もし。もし、此処でギルドの人間と会うような事があったら。
少なくとも、アッシュやオブシディアンは迷い無く、殺す。
では、自分はどうなのか。出来るのだろうか、かつての仲間に。
この迷いは、吹っ切ったようで心の奥底でくすぶり続けていた。リーブ達に手を貸すと決めた時から、ずっと。
仲間達を裏切るという事の意味は、理解している。理解しているが、かと言って完全に割り切れている訳ではないのだ。
「別にイイよ? やりたくなかったら、おっさんは見てるだけでも」
「いや…お前達だけにやらせる訳にはいかない。それは俺のプライドが許さん」
仲間達と戦う覚悟が、まだ完全に出来ている訳ではないけれども。
この青年達だけに殺しをさせ、血を浴びせ、『死』を押し付けるのは…それ以上に駄目だと思った。
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