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element story ―天翔るキセキ―
過去に踏み入るということ

「そういや、ここってカヤナとロウラの故郷なんだっけ?」

最後尾を歩いているオブシディアンが、先頭のタイガにも聞こえるよう大きめの声で問いかける。
アッシュは不快感を露わに眉を顰めたが、タイガは「そうらしいな」と返した。

「それがどうかしたか?」
「いんや、別に。ただ無言で歩くのが何かイヤだっただけ」
「くっだらねぇ」
「そー言うなよー」

アッシュの発言を意に介した様子もなく、オブシディアンは話し続ける。

「今や魔術師の家系の一つや二つ、小さな村にだって当たり前のようにいるからさ。昔仕事で何度か来た事はあったけど、やっぱ珍しいよなーと思って」
「ハッ。あのクソガキ共の故郷なんざ微塵も興味ねェが、魔術師がいねぇってのだけは唯一の長所だな」

鼻を鳴らすアッシュに、オブシディアンはからかうような声色で笑う。

「ホントにアッシュは魔術師嫌いだなあ。殺したい程憎い奴等が世界中にわんさかいるって疲れないか?」
「テメェにんな事言われた日にゃ俺はおしまいだな」
「えぇ? オレはお前とは違うよ。殺したい程憎い奴なんていないし」

段々と二人の取り巻く空気が険悪なものに感じられて来たのはタイガの気のせいではないだろう。いや、正確にはアッシュが一方的に拒絶と苛立ちのオーラを放っているのだが、オブシディアンの軽薄な口調にどこか挑発めいたものを感じるのも事実で。

「お前等、こんな所で喧嘩するなよ」
「大丈夫大丈夫、喧嘩じゃないって」
「だったらクソオブ野郎の口を塞げ」

二人の答えは同時だったが、言っている事はまるで正反対である。タイガは思わず溜息を吐いた。


(――…しかし)

タイガは、今の二人の会話を思い起こす。

アッシュが魔術師を憎む理由。それをオブシディアンは(恐らく)知らない。が、アッシュも同様にオブシディアンの過去については全く知らない筈だ。

(無知は罪とは言うが…、あれこれ知っている…ってのも考えものかもな)

二年前にタイガはリーブから他の皆の事情をある程度は聞いている。特にアッシュに関しては、リーブ自身が当事者である為か、かなり深い所まで知ってしまっていた。しかし、それをアッシュ本人に告げた事はない。その為タイガは何も知らない振りをしているのだが…。

オブシディアンに関しては、リーブも深くは知らないそうだった。彼曰く、「シディの事なら僕よりもベリルの方がよく知っているだろうね」だそう。
ベリルは二年前の事件――実験体であったエルを救出した時――より以前から、オブシディアンと関わりがあったらしいのだ。
けれどタイガは彼女にも、勿論オブシディアン本人にも、詳しく話を聞こうとはしなかった。

今や行動を共にする仲間だからといって、興味本位で人の過去に踏み入る事は出来ないと思ったのだ。本人が話したがっていたなら別だが、皆そうは見えない。



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あきゅろす。
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