element story ―天翔るキセキ―
異能の少女
――二年前。
響界を統べる代表が、失脚する程の事件が起きた。
…魔導具技術者の手によって、ひとりの少女は人体実験を受けていた。その少女は偶然断罪者が発見し保護した、捨て子であったという。
しかし、保護してから間もなく、少女には特異な能力がある事が判明したのだ。
その能力とは、『空気中に漂うエレメントを視認出来る』といったもので。エレメントの属性や濃度を正確に視認出来る少女の能力は、当時『虹色のエレメントロックを持つ少年』以来の新発見だと技術者達は沸いた。
どうしてそのような特異体質が生まれたのか、響界は少女の出生について調べ始める。
が、元々彼女は捨てられていた身。調査を続けても親が名乗り出る事もなく、少女本人も親の教育の問題か、言葉を話すのもままならなかった。
技術者達は仕方なく、今度は少女を魔術師として育てようと考え始める。言ってしまえばどうせ捨て子の身、成長すれば代表直属の魔術師・響界使者<ミカエル>にでも断罪者<ジャッジメント>にでもすればいいと。
魔術師にとって、少女の能力は非常に魅力的だ。それは、人が魔術を行使する際に思考することと深く関係がある。
空気中のエレメントの属性・濃度はその周囲の環境に左右され、濃度が高い魔術の方が低い魔術よりも威力が上がるのだ。
例えて言えば、海岸などでは水のエレメントの濃度が高く、火のエレメントは濃度が低い。この場では同じ下級魔術であろうと、水属性の魔術の威力が火の魔術の威力を上回る事になる。
つまり、少女がもし魔術師になった場合、周囲のエレメントの濃度を把握する事で、その場で一番戦況が有利になる属性魔術の取捨選択が容易になるという事だった。
そうして、技術者達は響界使者や断罪者と協力し、少女に魔術師となる道を強制的に示した。
――…しかし。結論から言って、少女は魔術師にはなれなかった。
エレメントを視認する事は出来ても、魔術を行使出来る程の体内エレメントは彼女には存在しなかった。
言ってしまえば、魔術師になれるだけの才能がなかったのである。
だが、技術者達は躍起になった。目の前に最高の逸材がいるというのに、それを上手く利用出来ないという現実に腹を立てたのだ。
その結果が、度重なる人体実験。
少女の体内エレメントを増やす為に無理矢理に注射を何本も打ったり、時に倫理に反する事が行われた。
それでも何の実も結ばない少女に苛立ち、暴力を振るった者達もいたという。十にも満たない年頃の少女に、である。
それを、当時の響界代表は…黙認していた。
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