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element story ―天翔るキセキ―
嵐の前の静けさ―2


「……やっぱり、一人で来るんじゃなかった……かな」

この洞窟には全体的に弱い魔物が生息しているようで、下級魔術でも容易に倒せる程度だった。

しかし、ひとり呟いた少年…ロックは魔術を使わずに、レイピア――所持する者の体内エレメント量を増幅する『エレメントオーブ(エレメントクリスタルを削り加工した物)』がはめ込まれている――を振るいつつ、魔物から一心不乱に逃げていた。

(僕の体内エレメントはそんなに多くない。今魔術を使って、この後にもし強い魔物に出会ってしまったら……)

エレメントオーブで増幅しているとはいえ、いずれ絶対にスタミナ切れが来る。そうしたら……そこで終わりだ。


「…あ!」

ロックは立ち止まる。進行方向が行き止まりだった上に、地面が崩れ落ちていたのだ。

……そうだ。此処は地上と海中を繋ぐ洞窟。洞窟が崩れてしまえば、海水はいとも簡単に洞窟に入り込む。

ロックの立っている位置は既に海水で濡れていた。海は黒々としており、思わず吸い込まれてしまいそうな深淵を見せている。


(……皆に心配掛けてるよなぁ……)

――ごめん。

そう心中で呟くと、ロックは海に躊躇い無く飛び込み、迫り来る魔物達から逃れたのだった。



「恵みの水よ、我の下に集い彼の物を打ち砕け! ……イード-ルアーム!」

アリアの周囲に集まった水のエレメントが激流となり、アリアと魔物を繋ぐラインを描くように四方八方へと放出されていく。
激しい水の勢いに耐えられなくなった魔物は次々と力尽き、魔術の効果も消え失せた。

「……ロックが通った後にしては魔物が多い」
「魔術を控えているのでしょうね」
ロックと合流する為、アリアとセイルは洞窟内を駆ける。


「……!」
十分程走っただろうか。
唐突な行き止まりに差し掛かり、二人は立ち止まった。

「……海か……」
「此処に飛び込んだのね…『私達は』息が出来ないから追うことも出来ないのに」
アリアに同調し、セイルは言う。

「仕方がない……どうする?此処で待機するか、シング達と合流するか」
「そうね……」
アリアは海を見下ろす。底の見えないそれに、何となく心がざわめいた。

――嵐の前の静けさ。

……波紋を描く穏やかな水面に、何故かそんな感想を抱いた。




「――ぷはっ!」
水面から顔を出し、ロックは辺りを見回す。海に飛び込んですぐ目に入ったのは、シング達が居る洞窟に連なる岩山。
さらに泳いで伝ってみると、人一人が入れそうな大きさの穴ぼこが見つかった。どうやら、海中からではないと進入できない造りになっていたようだ。

中を覗き込んでみるが、暗くて何も見えない。躊躇いがちに進んでみると、どんどん道は狭くなっていく。

(これは……)
その時、奥から強いエネルギーを感じたような気がした。
もしかしたらエレメントクリスタルの群生地が此処にあるのかもしれない。そんな直感を覚える。ロックは悩みつつも水から上がり、重くなった服を絞りながら先へ進んだ。

(今みんなのところに戻っても、結局海中を進めるのは僕だけだ。だったらこのまま行って、エレメントクリスタルの群生地があるのかを確認してから戻ろう)

その方が、きっといい。ロックはそう考えた。
幸い、魔物は今のところ見つからない。
安堵の溜め息を吐いた。が、すぐに気を引き締めたロックはレイピアを抜き警戒しながら歩み始める。


道は狭く、暗闇。
耳に入るのは、自らの足音だけ。
不気味な程の静けさを感じながらロックは進んだ。
歩き出して何分経っただろうか。何時間も歩いたような、数分しか歩いていないような、奇妙な感覚に苛まれ始めた時。


――遠くに、光が、見える。
それは眩い虹色の光。
この世の物とは思えない程の美しい光。


「これは……まさか!」

虹色の光に誘われるように、ロックは足を早めた。
最初は早足に、段々と小走りに、やがて全速力で駆け出した。
光の下に辿り着いた時、一瞬だけ目が眩む。

そして視界が開けた際目にした光景に、ロックは思わず息を飲んだ。

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