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element story ―天翔るキセキ―
嵐の前の静けさ


――十六年後――



「……それは灯火。灯火は彼の物を貫き、やがて焼き尽くす!イード-ガザ!」
空気中のエレメントが赤毛の少年が唱える『紡ぎ歌』に反応し、赤く染まる。

火のエレメントを纏う少年の周囲に赤の粒が舞ったと思いきや、一瞬の後にそれらは火の矢へと転じる。
そこから更に一本が二本。二本が三本に分裂していき、やがて少年の姿を隠してしまう程に集まった。

少年が魔術名を言い放った時、燃え盛る火の矢は少年の指し示した対象を寸分の狂い無く貫き、それを燃やし尽くさんと激しく燃え上がる。
対象――魔物は奇妙な声を上げていたがやがて燃え尽き、炎は自然と消えていった。
対象を無くした魔術の効力が消え、エレメントが空気中に戻ったためだ。
それを見届け、少年はふぅっと息を吐く。

「シング!」
そんな少年に駆け寄る三人の男女が居た。
シングと呼ばれた少年は彼らを認めると、嬉しそうに笑う。

「全員倒すのに一分か。まあ上出来だな」
「此処にいるのはまだ魔物に成り立ての物だけだったから当然ね」

歯を見せて快活な笑みを浮かべているシングに、何処か近寄り難い雰囲気を持つ少女が静かに言葉を返した。

「……この程度の敵に手こずっているようでは、ギルドの人間としてやっていけないからな」

少女に同意するように腕組みをしながら答えるのは、焦げ茶の髪の少年。こちらはシングよりも若干大人びてはいたが、一見冷ややかに感じられる切れ長の目が原因だろう。実際、彼等は同じ十六歳だ。

「リピートも何の問題も無かったのですな〜!」
最後に答えたのは、自らをリピートと称する少女。ふたつに結ばれた黄緑色の髪は彼女の背丈程の長さで、腕をぶんぶん振り回す毎に彼女の子供っぽさを表すようにあちこち動いて自己主張する。

「んで、ロックは?」
三人の様子に無事を確認したシングは、次いで質問を投げかけた。

「ここの手前に分かれ道があっただろう。そちらの様子を見に行くと」
「魔術が不得意な癖に、単独行動なのね」
すぐに答えは返って来る。曰く、一番手ごわそうな魔物をシングが相手している間に、もうひとりの仲間は単独行動を決め込んでしまったらしい。

「うぅっ。アリアのその台詞はリピートにもクるのですな……」
辛辣な響きを持つ少女の言葉に、リピートはさも胸が痛いと言うような大袈裟な仕草をした。
アリアはそれを見て溜め息交じりに言う。

「そうね。貴方は魔術の行使において大切な工程の一つである『構築』が下手だわ」

――先程のシングの場合、火属性の下級魔術の一つ『イード-ガザ』を発動する為、紡ぎ歌を唱えて体内の火のエレメントと空気中の火のエレメントと混ぜ合わせた。

これが魔術を発動する為の『構築』。紡ぎ歌の詠唱は、エレメントを利用する為のいわば入口なのだ。

構築を終えたら、後は魔術名を唱えれば術式が『展開』、魔術は発動される。
魔術名は言霊、ただ口にするだけで意味があるのだ。世界を構成するエレメント、そこに宿る精霊の言葉らしいが詳しくは分かっていない。

魔術はこの、『構築』と『展開』の工程を踏むことで初めて行使することが出来るのだ。
が、リピートは『構築』を非常に苦手とし、エレメントを利用する為の紡ぎ歌をよく忘れてしまう。
その結果、同じ魔術でも時によって威力がバラバラになってしまうのだ。

「だっ、だってだって! 文章とか覚えるの苦手なんですな〜……っ! リピートはアリアやセイル達みたいに頭が良くないんですなっ!」

リピートの魔術師としては致命的すぎる発言に、アリアだけではなく焦げ茶の髪の少年(セイル、と呼ばれた)も溜め息を吐いた。


「おーい、リピートいじりはその辺にしとけー」

一際大きな声で、しかし呆れた響きのシングの言葉に、三人は揃って彼を見やる(各々真顔になったり口を尖らせたり、反応は違うが)。

問題はロック……もうひとりの仲間が帰って来ない事。
元々シングをリーダーとするチーム『キサラギ』は、ギルドマスターであるヴァルトルの命で調査にやってきていた。つい最近発見されたこの洞窟にあると思われる、エレメントクリスタルの発見が主な目的だ。

シングは「仕方ないな」と息を吐いて、三人にこれからの行動内容を伝える。

「ここからは二手に別れるぞ。一つはこのまま道なりに進む。もう一つはロックと合流、その後は状況を見て各自判断して行動だ。
俺とリピートはこのまま探索を続ける。アリアとセイルはロックと合流してくれ」

シングの支持にアリア達はそれぞれ応える。
そんな彼女等にシングは満足そうに頷きかけたが、ふいに真剣な表情になって。

「よし、じゃあ最後にもう一つ。今回の依頼はエレメントクリスタルの発見が第一目標だが……。あまり無茶はするなよ」

シング達が所属する東ギルドとは目と鼻の先にある、人気の無い鬱蒼とした森。その奥深くに聳える山々の近くに、この洞窟はあった。
どれほどの深さなのかは不明。しかし地下にはかなりの量の水のエレメントが充満しているため、洞窟の真下には海がある可能性が非常に高いとのこと。

ともあれ、この洞窟の何処かにエレメントクリスタルと思しき強いエネルギー反応が感知されたらしい。

「言われなくとも承知しているわ」
「…当然だ」
「ですな」
「…よし。じゃあ行くぞ!」

今度こそシングは満足そうに頷き、リピートを連れ洞窟の奥へと進んでいった。そしてそれを見送ることなく、アリアとセイルは元来た道を足早に引き返す。

ロックが去った方の道へ、足を踏み入れた。

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