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element story ―天翔るキセキ―
響界へ


東西南北に点在する、四つのギルド。それらがある街は通称四大都市と呼ばれている。
それらを治め、またこの世界全ての法則・制約を取り纏めているのが『響界』――…魔術師の総本山だ。

ロックはエリィと共に、聳え立つ響界を遠くから見上げる。
天辺は遙か上空で、首が痛くなる程。
見るものに誰彼構わず、響界は重厚かつ荘厳な雰囲気を漂わせていた。

「……」
風の使い魔で響界の目の前に降りる事はしなかった。何故ならここもまた街の中に位置しており、不要な混乱を招かない為にである。
その為、ロックとエリィは響界の目の前まで歩いてやってきたという訳だ。

ロックが響界に足を運んだ回数は、決して多くない。
いや、毎年一度行われる『集魔道祭』――魔術師の祭典の際には響界に入るのだが、その時は行動制限が為されており一部の部屋しか入れないようになっている。

…つまり、響界公認の魔術師個人として此処を訪れるのは、殆ど経験がないという事だ。

否応無しに緊張が高まる。が、今はそれより早く養父に会いたいという気持ちの方が大きかった。
意を決して、ロックはエリィの手を引いて響界の門前に歩み寄る。
門番を務める二人の魔術師が、疑わしげにロック達を見つめた。

「…すみません。東ギルド所属の魔術師番号1126935、ロック・シナジーです。
東ギルドマスターの養父、ヴァルトルの容態を確認したいのですが…」
「ロック・シナジー…貴方が、ヴァルトル様の?」
「はい…」
二人の目は、未だ疑心に満ちているようだった。当然だろう、何せこの響界には侵入者があったばかりなのだから。
しかしロックとしては些か複雑な気分である。

魔術師番号は、響界に登録された公認魔術師の身分を証明出来るものだ。
だからロックは聞かれる前に自らの魔術師番号を述べて見せたというのに、疑念の孕んだ視線を向けられるとは。

――…ロックには、もうひとつ手っ取り早く身分を証明する手段がある。

それは勿論、エリィが現れるまで彼以外誰として所持していなかった虹色のエレメントロックだ。
(…どうしよう)
これを出すと、やはり混乱を招くのではと考えていたのだけれど。

「…何をしているのですか」
自分が持つエレメントロックを見せてしまおうかと悩んでいたロックの所へ、思いがけぬ救世主が現れた。
が、ロックはその人物の姿を認めると萎縮したように肩を竦めてしまう。

「……ランジェルさん」

西ギルドマスター、ランジェル・ギオット。
ギルドマスターの内、唯一養父の元仲間ではないこの男性がロックは苦手であった。

彼は二年前に失踪した西ギルドマスターに代わって補佐から昇格した身。
その為ヴァルトル達のように、ロックの事を良い目では見ていない。
集魔道祭で会う事もあるが、いつも冷たい視線を向けられるのをロックはよく覚えていた。
そして、今なおロックを見る視線には温かさの欠片もない。

「…!」
ランジェルの視線がロックからエリィに移ったその時、彼は他の者に悟られない程度に驚きを示した。

「ランジェル様、この者は…」
「…魔術師番号は」
「…い、1126935、です」
「…宜しい」
感情の籠もらない声で言い、ランジェルは門番らに告げる。

「彼は間違いなく、ヴァルトル殿の御子息です。通してやりなさい」
「あ、ありがとうございます! …あっ、でもその、彼女は…」
言って、ロックはエリィを見やる。エリィはよく事情を飲み込めていないのか、ロックが何故こちらを見るのかと言いたげに首を傾げていた。

「問題ありません。共に来なさい」
「ランジェル様、宜しいのですか?」
「ええ」
ランジェルの淀みない返答に、門番はロック達にサッと道を開ける。
二人の間を通る際、ロックは奇異の目で見られているのをひしひしと感じたが気にしないようにした。

門番の様子もロックの様子もまるで興味が無いのだろう。ランジェルはやはり感情の籠もらない声で告げる。
「ヴァルトル殿の事でしょう。…着いて来なさい」
「は、はい」
歩き始めたランジェルの背を、ロックはエリィの手を引いたまま追いかけた。



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あきゅろす。
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