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element story ―天翔るキセキ―
マガイモノ


「んー、それもなんか俺からすればさ。演じているように見えるんだよな。

その『普通の男の子』って人格をさ」


(――…!!!)

…足元から世界が崩れ落ちて。
冷たい暗闇の中へ、まっさかさまに落ちるような感覚がした。
何もかも、自分という全てを否定されたと、思った。

ロックは呼吸を忘れてしまう程に、男の言葉を心の内で反芻して。
心に焼き付けてしまった。
男の言霊は、ロックの心に傷を付けたのだ。

「――…もう、私一人でも大丈夫だろう。君達は自室で休んでいてくれ」
その時、いつの間にか報告を終えていたリーブが魔術師達に告げる。
「で、ですがリーブ様、昨晩は一人でいた所を襲われた身で…!」
「大丈夫だよ。…とにかく今は、私の指示に従って欲しい」
魔術師の言葉にリーブは笑顔で、しかし有無を言わせない語気で言い放った。


「…すまなかったね」
ロックと向かい合って座ったリーブは、眉を顰める。
「もう少し早く、君を助けられれば良かったのに」
本当にロックを労っているのだと解る程に、その声は痛ましさを含んでいた。
「…いいえ。リーブさんのせいじゃないです…」
そしてきっと、誰も悪くない。
誰がひとりが悪いのだとすれば、リーブでも、魔術師の誰でもない。

(…僕が、悪いんだ)

人格を『演じている』だなどと言われてしまう、そんな風に他人に見せていた『自分』が、悪いんだと。

「…君は何も悪くない。…本当に、色々と…すまなかったね」
最後の方だけ、歯切れ悪く言うリーブに、ロックは申し訳なくなる。
気を遣わせてしまっているのが、解っているから。

「リーブさんも…僕のことを、人らしくない、ただの人格を演じている奴だって…思いますか?」
それでも、悲鳴を上げるロックの心は、口を介して訴えかける。
問いかけつつも、リーブの答えは予想出来ていた。

ロックは、否定が欲しかった。
そんな事は無いと言われて、安心を得たかった。
そうでもしないと、どうにかなってしまいそうだったから。

そしてロックの予想した通り、リーブは優しい答えをくれる。
「…そんな事は、無い。君は君という、人間だ」
力強く、そう言った。



幾分か落ち着いたロックに、リーブは呼び出した理由を告げる。

「ヴァルトル様の元へ、君を行かせてあげたいのはやまやまなんだが…」
ここから響界本部へ辿り着くには、かなりの時間が掛かる。
森を越え、幾つもの町を渡らなければならない。

ヴァルトルが使役した風の使い魔を呼ぶという手があるにはあるが、響界と同日にここへ侵入者があった事実を鑑みると、ギルドマスター代理としては人員をロックの方へ割けられないのだ。

リーブの説明に、ロックはショックを受けたが同時に予想通りではあった。
(…そうだよね。また何かあるかもしれないし…僕なんかに人を割けないよね…)

…養父に会いたい。今すぐ、一分一秒でも早く。
けれど、現実はロックの願望を阻んで。
どうしようもない現実に、ロックは俯くしかなかった。

「…これは提案なんだけれど」
「え?」

思いもよらない、リーブの言葉の続き。
顔を上げたロックの心は早鐘を打ち、否応無しに期待が高まった。

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あきゅろす。
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