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element story ―天翔るキセキ―
ひとり

普段決して声を荒らげる事のないランジェルの言葉は、他の者の心に針のように突き刺さる。
だが…だからといって、現実から目を背ける訳にはいかなかった。

「…ランジェル。貴方の言いたい事は解る。だけどね、」
「解るものですかっ! あの方と仲間として接していた貴方がたに、僕の考えなど!!」
興奮して耳を貸そうとしないランジェルに、しかしナイクは告げる。
…彼にとっても、自分にとっても、残酷な事を。

「貴方だって、理解しているのでしょう?
…あの時『彼』以外の人間に、結界を破る事は出来なかったの」
「…っ!」
痛いほど理解している事実に、ランジェルは歯を食いしばる。

「どうして彼が、ヴァルトルを傷付けるような人間に手を貸しているのかは解らないわ。
何か理由があるのかもしれないし、それは彼自身に聞かなければ私達には知りようがない。
彼を捕捉するまでは、ね。
…現実から『目を背ける』事は、やめなさい。…ランジェル」

ナイクが放った言霊の数々。
最後の言葉は、ナイク自身にも言い聞かせるかのようだった。


「…外の風に、当たって来ます」

ランジェルはそう他の者に告げ、ひとり部屋を出て行った――…。




――…周囲の大人達は、皆自分を避けていく。

リーブに呼ばれたロックはひとり、ヴァルトルの執務室へと足を運んでいた。

いつもは養父が座る席。そこに今はリーブが座っている。

養父がいない。
いつも、この机に向かっていた養父が。

「少し待っていてくれ」
リーブはそうロックに言い残し、響界へと昨晩について報告している。

ヴァルトルの執務室に密かに保管されていた本が一冊、盗まれていたらしい。
昨晩現れた、偽物の断罪者の仕業だとロックは聞いた。

けれど、今のロックにはそんな事は正直どうでも良かった。

壁際の隅、椅子に腰掛けていたロックは、ぼんやりとリーブの後ろ姿を眺める。
執務室とヴァルトルの私室は繋がっており、ロックが左を向けばすぐにドアノブが顔を出す。

ギルドマスター代理を務めるリーブのサポートとして、この場に同席している魔術師達は、皆ロックがまるでこの場に存在しないかのように…彼の方を一瞥さえしなかった。
ただ、

「…可哀相にな」
「血は繋がっていないといっても、やっぱり悲しいんだろうよ」
哀れみの声が、僅かに聞こえて来る。
こちらには聴こえてないとでも思っているのだろうか、確かに彼等の声は小さかったけれど、幼少から大人の声に怯えてばかりだったロックには聴こえていた。
耳に入る音を、無意識に声として認識してしまう。

「結局、虹色のエレメントロックがなんなのかって解ってないじゃないか。
あれはそんなのを持ってた子供だぜ?
俺は正直、あの子供に人並みの感情っつうか、『親が傷ついて悲しむ』なんて感情があった事に驚いてるよ」

(――…だいじょうぶ)
そうロックは心の中で唱え、膝に置いていた手をぎゅっと握り締めた。
手のひらに爪が食い込む痛みで、胸に走る痛みを紛らわすように。

「おい、『ロック様』に聞こえたらヤバいぞ」
「平気だよ、『ロック様』は今はヴァルトル様の事で頭がいっぱいだろ。
…人並みの感情があればの話だけどな」

窘める仲間の言葉にも、男は幾分余裕のある調子で返す。

(きっとこの人は、ずっと僕のこと、嫌いなんだ)
だいじょうぶだと唱え続けても、考えるのはそんな事。
身体が、心が、きりきりと悲鳴を上げている。

「でも私、シングとかチームの仲間と一緒にいる時は普通の男の子に見えるけどなぁ」
ひとりの女性が、少し合点がいかないといった口調で男に意見する。

しかし男はその意見が来るのは予想していのか、舌の根が渇かぬ内に、すぐさま口を開いた。

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あきゅろす。
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