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element story ―天翔るキセキ―
待っているもの


「――さあ、行くぞ」

壮年の男女達が、列を成して砂浜を歩いていた。
リーダー各らしき男が他の四人に告げた後は誰もが無言を貫き、ただひたすらに目的地へと向かう。

――彼等は、エレメントクリスタルを目指していた。

エレメント……それは全ての命の源。世界を構成し、生命を構成するモノ。それらが結晶化したものが、エレメントクリスタルだ。エレメント量が多い場所に群生し、世界にエネルギーを与えている。
この海岸の近くには『水』属性のエレメントクリスタルの群生地があるのだ。

この世界の源と言われるこのエレメントは、魔術師らが統べる響界(きょうかい)の管理下にある。

ここにいる彼等は、響界直下の魔術師団体であるギルドの人間だ。響界からの依頼を受け、エレメントクリスタルを採取する役目を負っていた。


彼等は砂浜を進みながら海を見やる。
太陽の光を受けてきらきらと輝く蒼。非常に美しい物だったが、その光景に心を奪われている場合ではなかった。

さらに彼等は砂浜を進む。と、岩山に隠された小さな洞窟のようなものが見つかった。
岩山の一つに、子供が作ったかまくらのような小さな穴がぽっかり空いているのだ。穴の奥からは碧色の光が差し込んでいるが、穴を覗いてみてもその先に何が有るのか視認は不可能だった。


「入るぞ」
リーダー格らしき男が声を掛け、他の全員が頷いたのを確認してからその洞窟に入っていく。奥に足を進めるごとに、洞窟の奥からやってくる強い光に目が眩みそうになる。
しかし、歩みを止めるわけにはいかない。光にはやがて目が慣れる。ほんの少しの辛抱だ。


洞窟に入って五分もしない内に、彼等はエレメントクリスタルの群生地へと到着した。
地に根を張るように点在するクリスタルは相も変わらず眩い光を放っていたが、これには皆とうに目は慣れていた。

……その為、この場にいる『おかしな者』に気が付いたのも、ほぼ同時で。
そして誰もが、目を疑った。



――それは赤子だった。

産まれて数ヶ月とも経たないだろう、男児。
赤子は碧色のエレメントクリスタルに囲まれてすやすやと寝息を立てていたのだ。

「一体誰が……」
力が暴走したエレメントが創り出す魔物が、いつ現れてもおかしくはないこの場所で。

一体誰が、何故、この場に子供を捨てたのか。

目撃者達は哀れな幼子に目を細め、彼を捨てたであろう顔も知らぬ親に内心で憤った。

「とにかく、保護しましょう!」
ひとり女性が声を上げる。全員が目を合わせ即座に頷いた。足早に赤子の元へ向かい、リーダー格の男がそっと抱き上げようとする。


――その時。祈るように組まれた赤子の手の中に、何かが有る事に皆が気付く。
不審に思った彼等は、そっと赤子の手を引き剥がす、と。


「――これはっ?!」

一転して、この場にざわめきが生まれる。
無理もなかった。何故なら赤子は『この世に存在しない物』を持っていたのだから。

赤子が持っていたのは、虹色に輝く石。それは水のエレメントクリスタルから放たれる碧の光を反射するように眩く煌めいていた。

「……エレメント……ロック? でも、この色は……」

戸惑いがちに数人が顔を見合わせる。誰もが、自分達の直感に自信がないといった面持ちだった。

エレメントクリスタルが成長しきっていない頃の原石、エレメントロック。赤子が持っていた石は、形状のみならば彼等の知るそれに一番近い。
だが、問題は色だ。属性色を宿すエレメントには虹色など存在しないからだ。


「……」
赤子を抱いたままの男は、暫く黙り込んで眠る赤子を見つめる。

「――ヴァルトル?」
と、何の前触れも無く立ち上がった男に、話し合っていた仲間達が揃って顔を向ける。

ヴァルトルと呼ばれた男は、仲間達を振り返り、こう発言した。

「答えが出ねぇ事を考え続けてもしょうがねえだろ! 訳わかんねえ石より、今は生きてる子供だっ!」



――そうして今から十六年前、『虹色のエレメントロックを持った赤子』は東ギルドに保護された。
成長した少年は、現在もそのギルドの一員として身を置いている。


……しかし。誰も知る由も無かった。

この少年と、少年が持つ虹色のエレメントロック。
それらが、今、この世界に存在し。

それらが世界に齎すもの、その意味を――……。



――赤子はただ、眠り続けていた。
目覚めた先の世界に待っているものを、何も知らずに。


…………。


……。


……。



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あきゅろす。
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