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element story ―天翔るキセキ―
可能性、疑い、確信

「侵入者が目的としていたのは秘密指定書庫。そこへ入る為にはまず、隠し部屋を見つけなければいけない」

一つ目の疑問。
それは隠し部屋の警報装置が機能しなかった点。
今朝調べた所、警報装置は壊されていた訳ではなかった。ただ単純に『装置の機能が停止させられていた』のだ。

響界に備え付けられた装置の類は、代表とギルドマスター、それに断罪者しか扱う事が出来ないようになっている。

警報装置は前日はしっかり動いていた事が確認された。となれば、犯人は響界関係者、もしくはそれらと接点がある者に絞られる事となる。

「あの青年に協力者がいる可能性が高いわね」
書庫の荒らされようからしても、また青年の響界からの脱出方にしても、全てひとりで行ったとは考え難い。
ナイクの言葉にヘリオドールは頷き。
「ナイク達の証言を元に今、その青年について洗っている所だ」
現在、響界の代表直属魔術師――響界使者<ミカエル>が、響界に保存されている住民名簿、それに加えて公認魔術師名簿を見てそれらしき人物を捜しているらしい。
よって、青年の正体については今は報告待ちといった所である。

「隠し部屋を進んだ所にある、結界前の扉。そこの鍵は、警報装置の機能を停止させたたと同時に盗んだのだろう。装置の大元と共に安置されているからな。

…問題は、結界を破る方法だ」

その言葉に、一同息を飲む。

誰もがその異常さに気付いていた。そして、その『可能性』に思考を巡らせていた。
しかし、口にはしたくなくて。

けれど、誰かがそれに言及しなくてはならないから。
ここで止まる訳にはいかないと、決めたから。
そうでなければ、ヴァルトル始め負傷した人間に顔見せ出来ないから。

ヘリオドールは、本当は自分だって信じたくない可能性を告げる。


「結界を破れるのは、――…『響界代表とギルドマスターだけ』だ。だが俺達は昨日のあの時間、この場にいて誰ひとり退出していない。

…つまり、…侵入者に荷担している人物である可能性が高いのは…」

その時。
ヘリオドールの言葉をそれ以上聞きたくないとでも言うように、ひとり立ち上がった者がいた。
静粛とした場に、椅子が立てる耳障りな音が響き、皆そちらを見やる。

「…何ですか…」
皆の視線を受け、苦悶の表情を浮かべるのは――ランジェルだった。
彼の発する声は弱々しく、しかし静かな炎のような怒りを宿している。

「…皆さん、『あの方』が…賊に協力したとでも?」
「ランジェル…」
皆、ランジェルに複雑な視線を向けている。
しかし、その同情するような目が何よりランジェルには腹が立った。

「貴方がたはあの方の仲間だったのでしょう!? あの方は言っていたっ、貴方がたの事を何にも代えられない『友』であり『仲間』だと!

そんなあの方をっ、疑うというのですか!!」

ランジェルは苛立ちのままに激高する。
知らぬ間につくっていた拳が、鈍い音を立てて振り下ろされた。



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あきゅろす。
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