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絵描きな僕とオタクな先輩。
自己満足


それから十五分もすれば、先輩は何事も無く帰って来た。
「ただいま後輩君! さて、再会を祝して熱い抱擁を」
「しません」
…そんな会話を交わして。

そうしたら、暫くまた二人で話した。最終的に教室を出て先輩と別れたのは…午後五時頃だ。
僕は電車通学だから、その時間を加味している。


「お帰りなさい」
「ただいま、母さん」
家に着いたのは四十分後。僕は母さんに言われるまま、お風呂に入ることにした。
そしてお風呂を出た頃、母さんは二階へ上がろうとする僕に声を掛けて来る。
「櫂斗、携帯忘れてるわよ」
そうだった。僕は踵を返して、服を脱ぐ前に置いておいた携帯を回収する。
「さっき震えてたみたいだけど、友達から?」
母さんの言葉に、僕は自然体を装って「うん」と頷く。
…嘘を吐いてしまっている事実に罪悪感を感じながら。

「最近は友達とメールするようになったのね」
母さん嬉しいわ、いつか家に連れて来てね、だなんて。
優しい言葉が胸に棘を刺すようで、僕は曖昧な返事をしながら階段を上がる。
…逃げている姿に見えないよう、けれどなるべく急ぎながら。

自分の部屋に入ると、僕は適当な位置に腰掛けながら携帯を開いた。
母さんが言っていた通り、メールは来ていたけれど…。

(友達じゃない)

母さんには黙っているけれど、実際はアドレス帳に登録されている人は両手で数えられる程なんだ。
その中に、高校の『友達』はいない。中学の頃の友達はいるけれど。

僕は今や見慣れた名前を視線でなぞる。
…遠山、先輩。


『6/3 18:30
frm 遠山先輩
sb non title


泣 い た 。 』


……。
何となく予想はつく。大方やってたゲームのエンディングがどうのって話だろう。
さっきあれだけ熱弁していただけに、泣いた理由がただ単に感動したのかそれとも危惧していた事が的中してしまったのかは解らないけれど。
…とりあえず『何がですか?』とでも返信しておくか…。

僕は先輩に返信して、携帯を壁際に設置された机の上の脇の方に置く。
そしてそのまま椅子に座って、机の真ん中のスケッチブックを開いた。
傍らの2Bの鉛筆を手に取って、まだまっさらのページに思いのままに筆を走らせる。
風景画も描くけれど、僕は空想画を描く事の方が多い。
だから何かをモデルにして見なくてもいいんだ、頭の中にある図を形にするのが楽しいんだ。

そうして出来た絵は、見るからに何かに影響を受けた物になる事もあれば、自分でも何がなんだか訳が解らない物になる事もある。
でも僕はそれで良かった。誰かに見せる為に描いている訳じゃなくて、自分の自己満足で描いている物なんだから。

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