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絵描きな僕とオタクな先輩。
先輩と僕


――遠山明日葉(とおやま あすは)先輩は、いわゆるオタクだ。
しかも美少女ゲームに傾倒している、隠れオタクというものらしい。
ちなみに俗にいう『ギャルゲー』という呼称は嫌いだそう。なぜなら、

「『ギャルゲー』と銘打ってはいるが、その実出て来るヒロイン達はみな所謂ギャルという言葉からかけ離れた子ばかりではないか!
私はこういったゲームは『淑女ゲー』と名付けたい。ギャルゲーと言うなら昔なつかしガングロやルーズソックスのギャル達を集めたゲームにするべきだろう!」

…だそうだ。

そんなギャルゲー…いや、淑女ゲーオタクな先輩だけれど、ひとたびこの教室から出てしまえば人が変わったように物静かになる。
…それは先輩の『もうひとつの秘密』にも関係していた。

僕はこの教室以外の校内での先輩の姿を思い出す。
窓際の席で、いつも外を眺めている先輩。その横顔を初めて見た時、オタクの顔を持つ先輩と同一人物には思えない程だった。
誰とも話さないどころか、他人を遮断する壁を造っているような、その姿は。

…かつての僕のように、クラスの人からも、誰からも顧みられない存在に見えた。




『――これは、『契約』だ』

僕らが初めて出会ったのは、本当に偶然が重なっての事だ。
先輩の秘密…オタク趣味ではない、もうひとつの秘密を偶然知ってしまった僕は、無理やり先輩に『契約』を結ばされた。

それは契約と言う程大きな事ではないと思う。けれど、先輩にとっては大事なのだろう。

――言うなれば、その契約とは『先輩の話し相手になる事』だった。
ふたつの秘密を誰にも話さず、かつ先輩の話し相手になる事。
これが僕らの交わした契約。

つまり僕…土浦櫂斗(つちうら かいと)と先輩は、奇妙な契約関係で結ばれているのだ――…。




「全く、後輩君のフラグはいつになったら立つのかな?」
「馬鹿な事言わないで下さい」
先輩はよくこんな戯れ言を口にする。ゲームのヒロインと一緒くたにされるこちらとしては溜まったものではないのに、先輩は僕が何を言おうとこの主張を止めてくれない。
『私は攻略されるのではなく、する側がいいのだ』とのことだが、先輩だって女の子なのだから、少しは自重すればいいのに…。

先輩は先程までとは違い、僕のと突き合わせた机に頬杖をついて自信満々な笑みを浮かべる。
「やはり君はツンデレなのだな。まあいい、今に君を攻略して大団円のトゥルーエンドに辿り着いてみせるさ」
それに対し、僕は先輩とのこういったやり取りの時に必ず言う言葉を、今回も口にした。

「難易度、高いですよ」


――何故なら僕は、未だに『あの子』の事を引き摺っているから。


そしてその事を、先輩には何ひとつ話してないから――。



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