[携帯モード] [URL送信]

絵描きな僕とオタクな先輩。
証を

「ふー……」

話し疲れたのか、直子さんは一息吐くとゆっくりジュースを飲み始める。

「ねぇ、後輩くん。後輩くんの目からは、逆人と彼女さん、どんな風に見えた?」

「どんな風に……ですか?」

先輩と話してた時は、明るく振る舞っていたけど……直子さんはやっぱり、逆人君の事が心配みたいだった。

僕は少し迷ったけれど、正直に話す事にする。


「……まだ、よく分かりませんけど。端から見れば、普通の恋人同士に見えました」

連れ立って歩く二人は、つかず離れずといった距離を取っていた。でも、それが悪い雰囲気には見えなかったんだ。むしろちょうどいいぐらいに、僕の目には見えた。

そう話すと、直子さんは「やっぱりねえ」と声を上げて苦笑する。そして、小さな声で続けた。

「昨日の夜から、逆人ってばずうっとそわそわしちゃっててさ。あたしにも『女性はどんなプレゼントをされたら喜ぶのか』とか聞いてきてね。

――あー、もう。羨ましいったら無いわ」

「羨ましい……仮とはいえ彼女の氷尽さんが、ですか?」

「そう。最後にあたしが逆人からプレゼントなんて貰ったの、小さい頃の一回だけだから。何かを買って貰いたい訳じゃないけどさ、やっぱり嬉しいじゃない。自分への感情を、形として貰えるのって。証みたいだから」

――証か……確かに、そうとも言えるかもしれない。

つまり直子さんは、逆人君から『証』が欲しいのだろうか。彼女の出現によって、自分の居場所がなくなったっていう不安な気持ちを、解消できるような。

失礼のないよう注意しながら恐る恐る伝えてみると、直子さんは「そうね」と簡潔に肯定して。

「それもあるけど、ただの嫉妬もあるかな。『大好きな逆人が、他の女の子に取られたー!』ってね」

冗談混じりにそう笑いかけてくる直子さんは、少しだけさっきまでの憂いが解けたように見えた。

「ありがとね、後輩くん。愚痴、聞いてくれて。本音を聞いて貰ったら、お陰で少し楽になったわ。気持ちの整理がついたって言うのかな」

「あ、いえ……」

「明日葉にも、後でお礼言わなきゃな。色んな話を聞いて貰ったからねー」

直子さんの話を聞いた時、僕はかねてから抱いていた疑問を投げかけてみようと思った。


「あの、直子さん。直子さんは、先輩とはどれぐらいの付き合いなんですか?」

「ん? そうねぇ……明日葉とは、中二の頃に同じクラスでね。色々あって塞ぎ込んでたあたしに、向こうから話しかけてきたのが始まり。気が付いたら友達になってたの。明日葉、昔からあんな感じなのよ」

「あんな感じ……中学時代は、学校でも素を出してたって事ですかっ?」

「ああ……そういえば、そっちでは自分のキャラを隠してるんだっけ? 逆人から聞いたけど、驚きよね」

本当に……驚いた。
先輩、中学時代は人前でもちゃんと素を出していたんだ。しかも、自分から人に話しかけるなんて。
直子さんとどうやって親しくなったのだろうと前々から疑問に思っていたけれど、そういう事だったんだ。

「ねえ、今度はあたしから質問いい?」

「あ、はい。勿論」

「じゃあ……」

すると、直子さんは悪戯めいた笑みを浮かべて。以前と似た爆弾発言を、僕めがけて投下してきた。


「後輩くんは明日葉の事、好き?」



[*前へ][次へ#]

15/18ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!