絵描きな僕とオタクな先輩。
デート、はじまります
「ごめんお待たせ! 逆人達、もう来ちゃってる!?」
「……あ、ああ直子。大丈夫だ、まだ二人とも来ていないよ」
直子さんの登場によって、僕の声は形を失ってしまった。先輩は僕の言いかけた言葉に目を見開いていたけれど、すぐに直子さんに向き直って笑いかけた。
――聞きそびれてしまった。でも、仕方がないよな……。今は、逆人君達の問題を解決する為にここにいるんだから。
先輩とは、いつもの教室でゆっくり話せるし。疑問はまた今度聞いてみよう。……気にはなるけど。
「直子、あそこだ。あの時計台の下が、ふたりの待ち合わせ場所らしい」
「ふんふん、周りにも待ち合わせしてる人がいっぱいねぇ……あの中にカップルの片割れは何人いるんだか……」
直子さんは溜め息を零す。……弟が女の子といちゃつく所を想像でもしているのか、何だか悩ましげだ。
「――む、逆人君が来たぞ」
「えっ、あ! ホントだわ!」
その言葉に、僕は時計台の方へと顔を向ける。待ち合わせ場所へ到着した逆人君は、携帯を眺めたり時計台を見上げたり、何だか落ち着かない様子だ。
「緊張しているみたいね……」
誰よりも心配そうに直子さんは呟く。
そうして暫く固唾を飲んで見守っていると、逆人君は突然携帯を鞄に仕舞い、姿勢を正した。その若干慌てたような態度に、僕達はすぐに状況を把握する。
「……あっ、来た……!」
直子さんが声を漏らす。それと同じタイミングで逆人君の目の前に現れたのは、長い茶髪をパーマにした女の子――逆人君の仮彼女である氷尽深緒(ひょうじん みお)さんだった。
二人は暫くその場で話していたけれど、やがて逆人君が先導する形で時計台から離れていく。
「――よし。では行くぞ!」
先輩の掛け声を合図に、僕達三人も逆人君達を追いかけた。勿論、バレないようにある程度の距離を取りながら。
「二人は何を観るのかしら」
映画館へと辿り着いた僕達は、人混みに見失いそうになりながらも何とか二人の姿を捉える。
そしてチケット売り場の方へ向かった時を見計らって、二人が見ていた映画のポスターを確認する。
「これは……」
……。なんだこれ?
僕は目の前のポスターに釘付けになる。僕の隣にいる直子さんも同じようで、ぽかんとした顔で立ち尽くしていた。
やけに服が破れている男女が寄り添っている、このポスター。と言っても、その図だけならまあまあよく有りそうなものなんだけど。
――問題は、そこに書かれた煽り文句だ。なんか無駄に長い上に、ノリに着いていけなくて最後まで読むのを頭が拒否している。そう感じてしまう程に、とにかく意味不明な文章だった。
「えー、なになに……」
だけど、先輩はそんな文章をわざわざ読み上げた。時に熱っぽく、そしてねちっこく。
「『――世紀末、ここに訪れる――。
大盛りラーメン三十杯を食べながら全国横断を目指す旅人・よっしんこと夜枝餌(ヨシエ)は、橋の下で涙を流す少女を見つける。
「どうしたの?」「! き、貴様は……! 父上の仇っ、今度こそ流しそうめんにしてくれる!!」
果たして、夜枝餌とその少女の関係とは!? 夜枝餌の知らない真実とは!?
そして謎の男・夜塩(ヨシオ)とは一体何者なのか……!?
――やだ、あたしたちは血が繋がってるのに……!
謎が謎を呼ぶ超大作アクションコメディーラブストーリーの第二部、ここに見参!
見ないとぶっといお注射しちゃうぞ!』」
――って第二部なの!? まさかの続きものだったの?!
ていうか、アクションコメディーラブストーリーって……なんか色々と詰め込み過ぎなんじゃないのか。
「何を言う。ぶっちゃけた話、世に出ているアクション映画はラブストーリーがくっついているものも多いだろう。愛するものの為に戦う、素晴らしいじゃないか!
コメディーものでも恋愛が混ざる事はよくある。片思い中での空回りや、いじらしいけれども、くすりと笑えるようなネタやらだ。
……つまり、この三要素を詰め込めば最強の映画になると、これの監督は考えたんじゃないかな」
先輩……もしかしてこの映画、地味に見たがってます?
というか、逆人君達は本当にこれを見るんだろうか……。
「うーん。もし、その……これを見るとしたら、あたし達はどうする……?」
弟が観る(かもしれない)映画の内容に引きつつ、直子さんは話を切り出す。
「どうやら上映時間は二時間のようだな。では、今の内に私達は食事でもしてようか」
今の時刻は昼の十二時。ちょうどいい時間だろうという事で、僕達は映画館の近くのファミレスで食事を取る事にした。そこなら、窓から映画館を出て行く人が見れるからという理由で。
ファミレス内では、他愛のない話に花を咲かせていた。といっても、僕は先輩達に話を振られるまで黙っている事が多かったけれど。
「! ……二人とも、すまない。少しの間、席を外させて貰うぞ」
店に入って一時間後くらいに――突然、先輩がそう言って席を立つまでは。
トイレに向かう先輩の足並みは、微妙に慌てた様子で。もしかして、と僕は思う。
――先輩の秘密……曰く、『仕事』だろうか?
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!