絵描きな僕とオタクな先輩。
ちゃんと装備すべし
「よし。では二人とも、これを被ってくれ」
「? これは……?」
「ふふっ、いいからいいから」
先輩はあれこれ物を置いているらしい教卓から、ふたつの帽子を取りだした。僕や活海君に渡されたそれは、先が尖っていて、全体的にぴかぴかと光っている……幼稚園とかでやるお誕生日会で使うような奴だ。
見るからに百均で購入したっぽいこの帽子だけど、これに何の意味があるんだろうか……。
戸惑いながらも、僕と活海君はそれを被る。しっかりと顎に引っかけるゴム付きなのがまた……なんか嫌だ。
「うむ。二人ともよく似合っているぞ」
そう笑う先輩の頭にも、同じタイプの帽子が。色違いで、それぞれ僕が緑、活海君が赤、先輩が青色のを身につけている。
「先輩、いい加減なにがしたいのか説明を……」
半ば呆れている僕の声は、先輩が活海君の目の前に大きな箱を持ってきた事であえなく途切れた。
箱は淡いピンク色で、ちゃんと片手で持てるように造られている。まるでケーキか何かが入れられるような……ケーキ?
「先輩まさか……」
「ほら、後輩君。これを装備したまえ」
有無を言わさず、先輩は教卓から取り出した小さなクラッカーをひとつ渡してくる。いよいよ何が何だか分からなく……いや、これから何が起こるかは大体予想がつくけど、先輩の思考回路が意味不明だ。
「??」
活海君は首を傾げながら、この状況を静観していた。……うん。やっぱりある程度付き合いがあっても、先輩の行動理由は読めないらしい。
先輩は僕に渡したのと同じクラッカーを手にして、三角形になってる机のうち、最後のひとつの席に着き。
「では行くぞ後輩君! さん、にー、いち!」
「えっ!? ちょっ、あ……」
唐突に放たれたその声に、僕はすぐさま反応できない。
先輩が持つクラッカーが、小気味良い音を立てる。……のとワンテンポ遅れて、僕のクラッカーも役目を果たした。そのズレのお陰で、音の並びが物凄く不自然かつ気持ち悪い感じになって……何だか申し訳ない気分にさせられる。
「……後輩君! 武器は装備しなければ使えないんだぞ! 新しい武器を受け取ったらすぐにメニュー画面を開いてだな」
「少しでも罪悪感を抱いた僕が間違いでした」
そもそもの話、先輩が何も事前に言わず、全てを自分のペースだけで進めるのが悪いんじゃないか。今の僕に落ち度はない……と思う。
「……?? 明日葉さん、これは……」
「む、そうだな。そろそろ説明するべきだろう」
遅すぎますけど。まあ、口は挟まないでおく。
先輩は活海君の目の前に置かれた大きな箱で、両手でゆっくりと、用心深く開ける。
そこにはやはりというか――大きなホール状のケーキがあった。ケーキには切り込みが入っていて、すぐに分けられそうだ。
「……!」
それを見た活海君は、いささか過剰な程に目を見開いた。……なんだろう。甘い物が苦手……な訳はないよな。だったらそもそも先輩が買ってくる事はないと思うし。
「驚いたろう! これは私が、こっそり溜め込んでいた金で買ったのだぞ!」
活海君の様子に気付いていないのか、先輩はそう胸を張る。活海君はそれを聞くと、再びケーキを凝視した。
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