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絵描きな僕とオタクな先輩。
お姉さんのよう


「来たな。二人とも」

教室に入った僕と活海君を待ち受けていたのは、当然ながら先輩……なのだが、予想だにしない状況に僕はあんぐりと口を開けてしまう。

「何をぼさっとしているんだ。ほら、二人ともさっさと入った入った」

茫然としている僕達の背中を押し、先輩は開いていた扉をぴしゃりと閉めた。そして僕達の前に進み出て、一言。


「――…どうだ。一見ただの教室には見えないだろう」

「……確かに。そうですね」

胸を張ってどや顔をしている先輩に、どこか感心したように呟いたのは活海君だ。いや、活海君これは感心する出来事じゃないと思う……。


結局、何が起きているのかといえば……いつもの教室が、その内装をすっかり変えていた。もちろん、目の前でどや顔をしている先輩の手によって。

教室の壁やあちらこちらに、折り紙で作られた輪っかが飾られている。小学や中学の時によく作らされていた、高校に入学した途端もっぱら見なくなったアレだ。
後は、黒板にチョークで空のイラストが描かれていたり、教卓の上になぜかクラッカーやらパーティーグッズが置いてあった。

普段は等間隔に配置されている机は、三つを除いて教室の後ろに追いやられている。残りの三つは三角形をつくるように並べてあるけど、つまりこれは僕達三人の席ということなのだろうか。


「よし、君達はそこに座っているがいい。…後輩君、協力感謝するよ」
「あ、いえ…」

僕と活海君を席に座らせ、先輩は教卓の中をごそごそと漁りだした。……一体何をやっているんだろう。

「……とお、…いや、明日葉さん。話とは一体何ですか」
「まあまあ…待ちたまえよ逆人君。久し振りにゆっくり話せる時間が持てたんだ。そう焦るな」
「…はい」

活海君は戸惑っているのか、微妙に眉を寄せている。そうして視線を僕に向けるのは、もしかして助けを求められているのだろうか?

……あれ、そういえば。
僕は今の活海君の言葉に、少し違和感を覚える。

「逆人君はいい子だな。私が言っていた事をちゃあんと覚えていたのだな」
「言っていた事…?」

思わず問いかけると、先輩は教卓からにょきっと顔だけ出して笑いかけて来る。


「私の事は『名前』で呼んでくれと、前に言った事があるのだよ。今の様子では、どうやら日常的には『遠山さん』とでも呼ばれているようだが」

「いつかは、私が傍にいようがいまいが明日葉さんと呼んで貰えるようにするぞ」と、先輩はにやりと笑い、飛び出していた顔を引っ込める。……何か企んでいるような表情なのが微妙に怖い。

「……すみません」

「ふふ、いいのだよ。君の素直なところは私も好いているしな」

気まずそうに謝る活海君に対し、先輩は非常にあっけらかんとしている。その様子はそれこそ、弟を可愛がるお姉さんのようだった。



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