絵描きな僕とオタクな先輩。 不思議な人 「…活海君は、どうなの?」 ――…そして、結局のところ僕は答えを誤魔化した。いや、誤魔化しきれてもいない。ただ単に話題をすり替えただけだ。 (…答えが出なかったんだ) 僕と先輩の関係が、契約関係のみによって成り立っているからかもしれない。何も知らない活海君に対して、適切な言葉が全く思い当たらなかった。 だから僕は話を逸らして、活海君に質問を返してしまったんだ。 「…そうだな」 けれど、活海君はそんな僕を咎める様子もない。僅かに考えるような間を置いて、ぽつりと答えを寄越してくる。 「……親しくないわけではない。…だが、どうだろう…」 言い、活海君は続ける。 「遠山さんは…不思議な人だ。気が付けば、すぐ近くにいる…と言うのか。あの人は、他人に気まぐれで近付いているように見えて、実際は相手の事をよく気遣っている。…世話好き、なんだろうな。そんな所が、直子とよく似ている」 「……」 「…ああ、直子とは俺の姉の事だ。遠山さんから聞いていないか?」 活海君の問いかけに僕ははっとして、慌てて「うん、この前先輩といる時に会ったよ」と答えた。 「そうだったのか」 活海君の声は納得したような風で、僕の不審な様子には気付かなかったらしい。…前を歩いてて良かった。もし活海が僕の前か隣を歩いていたら、慌てた表情が見られてたかもしれないから。 どう考えても、活海君より僕の表情の方が色々と『分かりやすい』だろうし。追究されたら取り繕える自信もなかった。 (先輩は…) 僕は再び、先輩の事を考える。 ――…活海君の言う先輩評は、僕も確かにと同感出来るものだった。 『君の笑った顔も喜んでいる顔も、もっと見たい。怒っていたら何かあったのかと思うし、もし悲しんでいたら傍に寄り添いたいと思う。 私が君に対してそう願うのは、もしかして許されない事なのかな?』 先輩は、いつも芝居がかった口調で僕をからかう。フラグだなんだと言ったり、ゲームのエンディングについてあれこれ語り出したりする。 だけど…僕の気が沈んでいる時、…特に『彼女』について思い出した時なんかは、なぜか悟っているかのように優しい眼差しを向けてくるんだ。 …去年に僕が経験した事は、なにひとつ先輩は知らない筈なのに。 「……そうだね」 「…?」 「先輩は…そう。不思議な人だって、僕も思うよ」 ――…そうして僕は、いつしか活海君に対する緊張感がなくなっていた事に気が付いた。それはきっと、同調、なんだろう。 (先輩について考えていたら、いつの間にか…なんて) 絶対に先輩には言えないな。 そう思ったら、自然と笑みを零していた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |