絵描きな僕とオタクな先輩。
まっすぐで、素直
その後の授業も、やはりというか…出来る限り遅く来て欲しいと思うと、結果は必ず逆になって。
あっという間に放課後になってしまった。
僕は昼休みの時よりは軽くなった、けれどまだまだ重みのある身体をゆっくりと立ち上がらせる。
さっき話した感じでは、活海君は確かに悪い人ではなさそうだった。その点に関しては少し心は軽くなったんだけれど。
「……ふう」
やっぱり、慣れない。今まで話した事のない人と話すのは。
それに、先輩は…活海君たち姉弟の仲を取り持つつもりなのだろうけど、一体なにをしようとしてるんだろうか。
そんな心配事を抱えながら、僕は活海君と合流する為に教室を出た。
「…来たか」
「え、あ、活海君。…もう来てたの?」
教室を出た僕の視線の先。すぐそこの窓際に寄りかかっていたのは活海君だった。活海君は予想外の出来事に戸惑う僕を気にした様子もなく、
「約束したからな」
と一言。…なんというか、確かにそうなんだけれども…。淡々とした口調の中にも感じられるまっすぐさに、僕は少し呆気に取られた。
「…どうした。遠山さんが呼んでいるのだろう」
「あ、ああ。そうだね。うん、行こう」
…素直というか、純粋。僕が受けた活海君の印象は、言葉に表すとそんな感じだ。
もし僕が、彼の立場だったら。正直な話、今まで同じ学校に通っていながらも、向こうからは全く接触してこない先輩に対して妙だと思うだろう。そして、いきなりこうして他人を介して呼び出される事も不審だと感じる。
しかし、活海君はそんな気配を一切僕に見せない。僕は他人で、先輩はお姉さんの友人だから気を遣っているのもあるだろう…けど、実を言うとそういう風にも見えないんだ。
――…ただ、本心から。迷いなく、人の言葉を真摯に聞いて、それをまっすぐに信じる。上手く表現出来ないけれど、活海君はそういう人に見えた。
「…遠山さんとは、親しいのか」
いつもの教室へ行く道すがら、活海君は小さな声で問いかけて来た。僕は活海君を先導する為に前を歩いていたから、表情は見えない。声色もやはり抑揚が少なく、活海君が何を思ってそう聞いてきたのかは僕には察する事はできなかった。
「…遠山先輩は…」
先輩から一方的に契約関係を結ばれた僕は、けれどそれについて活海君に話す事はできない。先輩のあの秘密は、活海君たち姉弟にも内緒しているからだ。
だから、僕は先輩との関係を示すのに一番単純明快である『契約関係』は使わずに、それでいて簡潔に活海君へ伝えられる言葉を、自分の頭の中に求めた。
僕は考える。先輩と僕の関係を、無理なく簡潔に伝えられる、正しい言葉があるのかを。
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