絵描きな僕とオタクな先輩。 舞い込んだチャンス 「うわぁっ!?」 「!」 突然、背後から肩を掴まれて。僕は思わず大声を上げてしまう。 勢い良くと振り返ると、相手も驚いたらしい。僅かに眉を吊り上げて、僕の肩に置いていた右手が不自然に空中に留まっていた。 「…す、すみませ…ん!?」 とにかく謝ろうと頭を下げた時、一瞬見えた相手の顔が何だか見覚えがある気がして、すぐさま顔を上げる。と、そこにはやはりというか、予感していた人物が目の前にいた。 「…いや、俺の方こそ驚かせたようですまなかった。…よく、声が小さいと言われるんだ」 その人は、先輩や活海さんから見せられていた写真にいた人。昨日から話の渦中にいた、活海逆人君その人だった。 しかし、まさか偶然会えるなんて…先輩がいたら『お約束』だとでも言っていただろう展開だ。 だけど、これは僕にとっては好都合だ! このチャンスを逃したら次はないと考えた僕は、何とか話を切り出そうと口を開く。 「あ……えっ…と。その…」 「……」 …ああ、もう…我ながらこれは酷い。先輩の名前を出して、用件を言えば済む話なのに……。 そして、これは言い訳くさいんだけど…対する活海君が無表情なのが、余計に緊張する…。 「……誰か、このクラスの人間を捜しているのか?」 僕の様子をじっと見つめていた活海君が、ぼそりと呟くけど。そうじゃないんですあなたです…。 「違くて…僕は、君に…話が」 「俺にか?」 何とかそれだけ伝えられた。ここまで来ると、とにかく話を聞いて貰わなければという気持ちで必死に頷く。 僕の様子に納得したように、「そうか…」と活海君は言って。 「なら…こっちまで来い。ここだと教室の出入りをする奴の邪魔になる」 「あ…はい」 正論に思わず敬語で答え、僕達は教室の扉前から窓際に移動する。 「…それで、お前は?」 「僕は…C組の土浦櫂斗。君はA組の活海逆人君…だよね」 「ああ」 今一度、僕自身落ち着いて話す為にも確認してみる。 活海君は淀みなく頷く。これで『何で俺の名前を知っているんだ』とか『早く用件を言え』なんて言われなくて良かった…。 活海君は、答えを急ぐタイプではないのかもしれない。 「遠山先輩に、頼まれて…放課後に、僕も含めて三人で会わないかって…」 「遠山さんが?」 「う、うん」 活海君は、僅かに目を見開く。驚いている…のかな。すぐに無表情に戻ってしまうから、感情が読み取り辛い。 …『何を考えているのかわからない』とは思わない。そんな風に思ったら、昔僕に陰口を言ったクラスメイトと同じになるから。 きっと活海君は、感情が顔に出ない性格なんだろう。 ――それからまた少し話をして、僕は何とか活海君と放課後に会う約束を取り付ける事に成功した。 正直、これだけで既に精神的にはくたくたなんだけど…そうも言っていられない。 [*前へ][次へ#] [戻る] |