絵描きな僕とオタクな先輩。
らしくない
『私は友人が送って来たSOSを放っては置けない。
…後輩君。…協力、してくれないか』
「……」
最後の問いかけだけは、いつもみたいな自信満々な態度ではなかった。僕の気持ちを窺うような、懇願というのが適切かもしれない。
さっき送って来たメールを声にしたら、こんな感じだったのだろうか。
…らしくないな。と思う。
いつだって先輩は、もっと強引で、僕の意見を聞かずに突き進むのに…。
「…先輩はいつも、自分のやりたい事に僕を巻き込みます。『君に拒否権はない』と、そう言って」
『……』
先輩は肯定も否定もなく、僕の言葉の続きを待っていた。
「先輩はプレイヤーの立場なんでしょう? だったら今、僕に聞く事なんてないんじゃないですか。
先輩の目の前には今、選ぶべき選択肢が浮かんでいるんでしょう。バッドエンドに行かない選択肢。
それが最善だと思うのなら、選ぶべきです。
僕は…僕に出来る事なら、協力しますから」
――言い終えた時、珍しく饒舌な自分に戸惑いを覚えた。
今までの僕と先輩の立場が逆転したように、僕は饒舌になって先輩は聞く立場になっていて。
…らしくない。僕も、先輩も。
『…ふふ。そうだな』
先輩も同じ事を思ったみたいだ。『らしくなかったな。今の私は』と笑っていた。
『君の良心に訴えかけて利用しているようだったな。申し訳なかった』
「いえ、そんな…」
『私はプレイヤーなのだから、選択権は私にあるものな。深く考えるまでもない。私がやりたい事をやればいい。そうだろう?』
「…そうです」
言葉だけを切り取ったら、まるで独裁者のようにも聞こえるけれども。
さっきまでの先輩より、この方が『らしい』と思ったから。
僕は肯定した。
――普段は『振り回されてる』って思うくせに。いざ強引さが無くなると、『らしくない』だなんて。
そうも思ったけれど、自分の言葉を撤回する気には全くならなかった。
『よし』
すっかり元気を取り戻した先輩が、明るく告げてくる。
『よし。では、後輩君。早速だが、明日…』
――…その後告げられた言葉に、僕はすっかり固まってしまった――…。
…そして時間は現在へ。昨夜の事を思い出している間に、僕は学校へと辿り着いていた。
…ああ…着いてしまった。
やりたくない事が待っている時に限って、時間は早く進んで。
頼むから一分でも時が止まってくれればいいのに、なんて僕のささやかな願いが叶えられる筈もなく。
あっという間に、先輩から頼まれていた事を実行する時間が来てしまった。
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