絵描きな僕とオタクな先輩。
決意表明
――僕は、学校への道程をのろのろと進む。重い足取りは、そのまま今の僕の気持ちを表していた。
何故か、といえば。昨日の夜、先輩と電話した時の事を思い出さなければならない。
あの時、やっぱり『はい』と言わなければ良かったんじゃないだろうか――…今更考えてもどうしようもない可能性を思いながら、僕は昨夜の先輩との会話を思い出していった。
『――直子の話、後輩君はどう思った?』
「え…どう思ったか……ですか?」
『ああ、そうだ。どんな事でもいい。もちろん直子に話したりもしないから、正直な意見を聞かせてくれ』
「……」
僕は少し考え込む。先輩の事を疑ってるわけじゃなくて、活海さんが話していた話についての意見を、と言われたからだ。
活海さんの話といえば、やっぱり…弟である活海逆人君との事だろう。あの話を聞いていた時の先輩の表情は真剣そのもので。活海さんの事を心から案じているのが、僕からでも見て取れた。
そんな先輩に対し、僕も真剣に答えなければと思う。だから僕は、ひとつひとつ言葉を手繰り寄せるように言霊にしていく。
「…正直、…つらいだろうなと、思いました」
僕にはきょうだいはいないけれど。だから活海さんの気持ちが分かるかと聞かれれば間違いなくノーなんだけれども。
「――…でも。自分の大好きな、誰よりも近くにいた人が、…自分じゃない人を大切に想ったら。
…身を引き裂かれるように、つらくて。いたくて。たまらないと、僕は…思います」
感じたままに先輩に告げると、胸のあたりに、ちくりと痛みが走る。それに気を取られまいと、僕は受話器に当てた耳に、その先から聞こえる先輩の声に集中した。
『…そうか。…私も、君と同じで兄弟はいないからな。直子の気持ちを理解するのはなかなか難しいとは思う』
――だが。先輩はそう言葉を繋げる。
『私は、完全に理解は出来なくとも、直子を助けたい。心に抱えている悩みを、少しでも軽くしてやりたい』
…毅然とした態度。それは晴れやかな空のように、一片の曇りもなく。
眩しい程に、まっすぐな言葉だった。
『私は私自身の事を、直子や弟君には隠している。それは私にとって、常に罪悪感を伴うものだ。
…けれど、私が直子を助けたいと思う理由はそんな事ではない。
『直子が私に悩みを打ち明けてくれた』…友人を助ける理由など、それだけで充分だろう?』
決意表明をするかのように、先輩はそう僕に語りかける。僕は何も口を挟めず、ただそれを聞いていた。
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