絵描きな僕とオタクな先輩。
確信めいたもの
「違いますよッ! 僕と先輩は恋人同士じゃありません!」
「えっ! あ、そうだったの!? ごめんね!」
声を荒らげた僕に驚いたのだろうか、活海さんは目を瞬かせた。自分で言うのもどうかと思うけど、僕は普段暗い人間だから声を荒らげるなんて滅多にない。
「…むう。そんなに強く否定しなくてもいいではないか」
先輩は口を尖らせる。…先輩にとっては大した事じゃないかもしれないけれど、僕にとっては大問題なんだ。
「ホントにごめんね。…うん、やっぱ何か奢ったげる! 何でもいいから遠慮なく言って! さあさあっ!」
「え、いや、あの」
「観念して受け入れたまえよ後輩君。こうなった直子は誰にも止められん」
そう言ってくすくす笑う先輩に、詰め寄って来る活海さん。
…二人に促され、僕は仕方なく、なるべく安めのジュースを奢って貰う事にした…。
その後、僕達は他愛のない話をして過ごした。
夕日が眩しくなった頃、そろそろ帰ろうかという話になり、方向が違う僕は駅で先輩達と別れたのだけれども。
「…はあ」
電車に揺られながら、思わず溜め息を零してしまう。なんだろう、疲れた…。
今日は色々な事があったからかもしれない。
初めて、先輩が誰かとまともに話している姿を見て。
初めて、学校の外にある先輩の好きな場所に連れて行かれて。
初めて、先輩の友達に出会った。しかもその人は、関わりが全く無いとはいえ同級生のお姉さんで。
…って、思い出してみれば全部に先輩が関わっていた。なんだってこんな、何かにつけて先輩ばかり…。
なんとなく釈然としなくて、考え込んでいると。
ふいに携帯が震えた。メールだろうか。
送り主は…たった今、僕の心の渦中にいた人だった。
『6/5 17:32
frm 遠山先輩
sb すまないが
後で電話してもいいだろうか?』
…珍しい。
メールを見た最初の感想はそれだった。
何が珍しいって、先輩が一行メールを送って来る事が。
そして、『電話してもいいか』なんて聞いて来るのは。
なんだかんだで、僕達はあまり電話で話す事はない。いや、お互いに何か事情が無い限り、ほぼ毎日放課後に会っているから必要ないというのが正しいか。
メールはちょくちょくあるけれども、大抵は先輩が他愛のない事を送って来て、僕がそれになんとなく返信するという感じで。終わりもお互い適当な所で切り上げるのがいつもの事。
基本的に先輩は強引だから、僕に許可を取るなんて事は珍しいんだ。そして、そんな珍しいケースだからこそ、今回電話したい事はそれなりに重要な事なんじゃないだろうか。
『わかりました。何時頃にしましょうか?』
僕は簡潔にそう打って、送信する。そうして携帯に表示された『送信完了しました』という文字を見た時、僕は思った。
――…今の僕は、ほとんど先輩を起点に行動しているのかもしれない、と。
それが、ただ単に振り回されているのか。
僕がそうしたくてしているのか、わからないけれど。
とにかく、美術部を止めた僕は今、淑女ゲーオタクの先輩とともにいると。
それしか、確信めいたものはなかった。
→To be continued...
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