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絵描きな僕とオタクな先輩。
姉と弟


「元気そうで何よりだ。…逆人君とも、さっき学校で久し振りに話せたよ。
幾分か、元気になったようだな」
「…?」

『元気そうで何より』…その言葉に何だか僕は引っかかった。
会った時の二人の様子からして、最近は会っていなかったという事なんだろうけど…それだけにしては、何か…違和感を覚える。
先輩の接し方が、僕と活海さんとで違うから? だからかもしれない。

まるで活海さん達姉弟の事を気遣うように、目を細めて微笑を浮かべる先輩。
僕にとって新鮮であるその表情は、そういえば数時間前、校舎で話していた活海君に対しても同様だった。あの時僕は、先輩はただ他人へ接する時用の仮面を被っているだけだと思っていたけれど。
よくよく思い出してみれば、あの笑顔は今と…。

「…そうね。一時期は本当に大変だったから…逆人が少しでも元気になってくれて、あたしは凄く安心したの。
…『そうさせたのがあたしじゃない』ってのは、なかなかに堪えたけどね」

さっきまでとは打って変わって、何処か哀愁を漂わせながら活海さんは言った。
…僕にはあまり話が飲み込めないけれど、それは仕方がない。
僕は今日、活海さんと初めて出会った。しかも偶然にだ。弟の活海君とも、同じ学校の同学年ではあるけれど関わりはない。
言ってしまえば、ただの部外者なのだから。

…けれど、その部外者である僕にこんな話を聞かれてもいいのだろうか。先輩が気遣ってくれたのかもしれないけれど、別にひとりで帰れない子供ではないのだし気にしなくていいのに。
…いや、寧ろ、自分から帰りますと言い出すべきだったか。先輩と活海さんが久々の再会ならば尚更、二人きりで話したい事だってあるだろうし。

「ねぇ、後輩くんはきょうだいっている?」
「え。あ、いや…いません」
突然話を振られた。驚いた僕はいつも以上にぶっきらぼうに返してしまう。
「そっか…」
活海さんは僕の答えに何を感じたのか、「あのね」と言葉を切り出す。

「きょうだいってね、切っても切れない繋がりがあるの。血は水よりも濃いって言うけどさ、ホントにそんな感じ。
一緒に育った時間があるから、少なくともあたし…あたし達にとっては親よりも近い存在なのよ」
「……」
「お互いの良いトコ、駄目なトコ。そういうの、全部知ってる。誰より近くで、お互いを見てきたから。

…だから、ね」

活海さんの声は、重い。そして何より、寂しい。
それは、兄弟がおらず活海さんの気持ちを完全には理解出来ないだろう僕にも感じられた。

「逆人が、あたしの知らないトコで…あたし以上に大切な人をつくってたなんて…正直、すんごいショックだったの。うん、ぶっちゃけさ、嫉妬しちゃったのよ。ホントにあたし、ヤな姉だなーって思うんだけどね。

自分の素直な気持ちに、ウソは吐けなかった」

言葉を挟む余地なんてある筈なかった。
「……」
隣に座る先輩も、押し黙って話を聞いている。その横顔は真剣そのものだった。


「…逆人ね」



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あきゅろす。
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