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絵描きな僕とオタクな先輩。
絵描き後輩、オタク先輩


僕は昔から、暗い子だと言われてきた。
『一緒にいてもつまらない』だの、『なに考えてるんだかわからない』だの。その回数は少なくはなかった。

しかし僕自身としてはそんなつもりは全くないのだ。
ほんの少しだけ、人より行動するペースが遅かったり。
ほんの少しだけ、人より落ち込みやすかった…かもしれない。とにかくそれだけだ。

それに、もうそれらは昔の話。
今の僕は一年前の美術部での件もあり、昔より断然心が強くなった…と思っている。

美術部は四月の入学式前に辞めてしまったけれど、僕は絵を描くのが好きだ。
物心ついた時から描いていた絵は、僕にとってかけがえのない財産と言って良かった。

だから僕は美術部を辞めてからも、もう何冊目になるか解らないスケッチブックを手に、学校の休み時間や放課後にふと目についた景色やらを描いていたんだ。


――それがまさか、あんな人と出会う事になるなんて…思いも寄らずに。







「なんだこれは!」
携帯機のゲームを操作しつつ、先輩は画面を睨みつけながら声を上げた。
先輩から少し離れた席に座って絵を描いていた僕は顔を上げて、なんだかんだと唸っている先輩を見る。

「先輩、今度はなんですか」
僕が聞けば、先輩はよくぞ聞いてくれた!と立ち上がり、ゲーム機を持ったままつかつかと僕に近付いて来る。
そして僕の机をドンと叩くと(結構耳に響いた)、右手のゲーム機の画面を僕にずいと見せて来た。
…黄色の髪の女の子が大雨の中で佇んでいる絵が画面いっぱいに表示されていた。女の子の表情は前髪で見えないようになっている。
どう見たって楽しいシーンではない。
…こういったものの知識が全く無かった僕も、先輩があれこれと勝手に教えてくれたお陰で、これが何だかある程度予想がついた。
先輩が僕に何を訴えたいのかも。

「バッドエンド地獄にでもハマったんですか?」
「違う!」
あれ、違うのか。 一番これだろうと思ったんだけど。
先輩は大きな目をさらに大きくしながら、僕に鼻息荒く説明を始める。

「君の言う通り、このままメッセージを送れば即バッドエンド直行だ。それに気が付いたのは後輩君、私は君を誉めてあげたいと思う。だが、私が言いたいのはそんな小さな事ではないのだよ!」
芝居がかった仕草で顔を覆い隠す。さも私は嘆いていますと言いたげだ。
そしていきなり僕に視線を戻すと、先輩は弾丸の如く喋り出した。

「後輩君よ、君にこの痛みが解るかね!? 身を引き裂かれん程の痛み、これは身分違い故に結ばれず悩みぬいた末に心中を図り相手を殺したはいいがいざ自分となると急に命が惜しくなり死ぬに死にきれずしかしそんな罪深い自分に絶望して血の涙を流しながら咆哮を上げて場面暗転してエンドするレベルだぞッ!!」
「わけがわからないので、言うならさっさと言って下さい」
「…まだ君にはレベルの高い会話だったか? それはすまなかったな…」
「会話にすらなってませんから」
馬鹿にされている感じがしたのでぴしゃりと言ってやると、先輩は暫く不服そうに「むう…」と唸っていたが、やがて息を吹き返して再び語り始める。

「メインヒロインのトゥルーエンドに行く為のフラグが、他のヒロインのバッドエンドを『全て』見ないと立たないとは何だ!」

……先輩と知り合ったばかり―何だかんだでもう二カ月も経っている―の頃の僕には、絶対に理解不能であろう単語がポンポン飛んでくる。
先輩は今までストレスが溜まっていたのを解消するように、その後もあれこれと一方的に話し出す。

「メインヒロイン以外とのラブを許さないスタッフの嫌がらせか!? しかもそのバッドエンドが何から何まで鬱エンドときたっ!
メインヒロインのルートもノーマルエンドだろうがバッドエンドだろうがお構いなしに死別だの転校だの! これでトゥルーエンドも報われない終わりだったら、私は何の為にヒロイン達の自殺を止めたりそれに失敗して自分が死ぬエンドやらギャグエンドに見せかけて最後の最後に奈落の底に突き落とす半ばホラーエンドを見ていたんだか解らなくなるぞ!!

あぁ、くそ! 責任者出て来いー!!」


僕ら以外誰もいない教室に、先輩の叫びがこだました――…。


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あきゅろす。
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