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絵描きな僕とオタクな先輩。
類は友を呼ぶ

――その声を聞いた途端、先輩はそれまでの多弁っぷりが嘘のように語るのを止めた。そして、声がした方を振り向く。


「…! 直子!」

先輩の目が相手を捉えると、その表情は見る見るうちに嬉々としたものに変わった。
直子、と声の主の名前を呼びながら駆け出す。

僕は先輩を見送りつつ、声の主に視線を送る。
女の人だ。年齢は、雰囲気からして多分先輩と同い年くらいか。少なくとも、僕と同年代には見えない。
露出は多目だけれど、いやらしさとかじゃなく健康的な溌剌さを感じる。

先輩と女の人は、珍しい女性達の存在を気にする周囲には目もくれず、会話に花を咲かせていた。
表情はとても明るい。普段僕に対してするような、意地悪い笑みは皆無だった。

…普段から、ああいう感じだったらいいのに。





「はじめまして、明日葉の後輩くん。あたしは活海直子。よろしくね」
「土浦櫂斗です。…よろしくお願いします」

適当に近場のファーストフード店に入った僕達は、ようやくお互いの名前を知る事となった。
僕は、年上の人の自己紹介という慣れないシチュエーションに、たどたどしく応える。
さっきの様子からして先輩の友人…だと思うけど、醸し出す雰囲気からはあまりそうは感じない。勿論オタク的な意味で。
でも活海さんとも出会った場所が場所だから、やっぱりこの人も先輩と同じ世界の住人なのだろうか。

……ん? 活海…って、つい最近、本当につい最近に耳にした名前のような気が…。

「ようやく気付いたようだな」
僕の様子を見て察したのか、先輩は解説を始める。

「彼女は私の数少ない友人にして、君と同い年である活海逆人君の姉だよ」

そうだ。活海、という名字はたった数時間前に聞いた名前だった。
活海君とは特に関わり合いになる未来が見えない、なんて数時間前の自分は考えていたのに。まさかいきなりお姉さんと会う事になるとは…。

「ねぇねぇ後輩くん! 後輩くんは逆人と知り合い? 友達だったりしない? 明日葉と一緒にいるのを見て、制服も同じだしもしかしたらって思ったんだけど!
逆人はあまり学校でのことを話さないから、姉であるあたしとしては心配で心配で仕方がないのよっ!
ああもうっ、ほんっとに姉泣かせの弟よね! そこも可愛いーんだけど!!」


……。前言撤回。いや、口には出してないけど。
鼻息荒く弟の事を語る活海さんの姿は、淑女ゲー話を僕に振りまく先輩の姿となんら変わりない。
自分の好きなものに対して、他人に語らずにはいられない…類は友を呼ぶ、とはまさにこの事か。

「えっと…すみません。僕は弟さんとは知り合いじゃないんです。クラスも違くて…合同授業で会った事があるような…そんな程度です。申し訳ないですが」

僕の言葉に、活海さんは明らかに残念そうな顔をした。僕が何だか悪い事をしたような気分になる。
でも、知らないのは本当だし。

「姉弟関係は相変わらず良好なようだな」
「当たり前、あたし達きょうだいはお互いのこと大好きだもん。仲が悪くなんてならないわ。ありえないって」

自信満々に言って、活海さんは胸を張る。姉弟関係にヒビが入るなど有り得ない、考えられないと体中から表していた。


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あきゅろす。
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