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絵描きな僕とオタクな先輩。
つながり

「はぁ」

息を吐き、僕は机の上に腕と頭を預けた。
ぐったりしているのは絶対に先輩のせいだ…。
絵を描く気分にはなれず、僕は頭だけ動かして窓の外を眺めた。
横向きに見える空はいつもと違う趣があると思う。雲の流れ、そこに時折軌跡を描く飛行機雲などがそれだ。
視点を変えれば、普段見ている景色も別の顔を見せてくれる。
それは視点を変えようと試みた人間にだけ与えられた勲章のようで、僕は何処か沸き立った優越感を覚えた。

空模様は梅雨の時期には珍しく晴れ渡っていて、青のキャンバスの中にに縁取られた純白の雲は、穏やかな時間を証明するように流れて行く。

「…」
――こんな風にゆっくり空を眺められるのも久し振りに感じた。
でも、解ってるんだ。その認識はおかしいって事。

いつも騒がしい先輩。会話している時は勿論、傍でひとりゲームをやっている時だって、画面を見ながらにやにやしたり唸ったりである意味騒がしい。
そんな先輩と二カ月前から一緒にいるせいだろうか。空を眺める機会は幾つもあったのに、先輩がいない今この時が何だか懐かしい感じがする。

…先輩と会ったのは、二カ月前。桜が舞って、世界を桃色の雪が鮮やかに飾っていた頃。

それ以前の僕は――…。





『櫂斗くん』

…そう呼んで僕の手に自分の手を絡める彼女に、僕は情けない反応しか出来なかった。
誰もいない美術室。立て膝をついて絵を描いていた僕達。左手から伝わる柔らかな温もりに、逆手に持っていた絵筆がついに離れる。
転がり落ちた筆はあらぬ位置に色を付けるけれど、僕はそれに構っている余裕は無かった。

距離が近い。彼女のセミロングの茶髪が、窓から入る風に靡いて僕の頬を撫でるその感覚が何だかこそばゆくて、でもいつまでも感じていたかった。
そう、僕は彼女から伝わる匂いに酔っていたんだ。心臓が早鐘を打って、目には彼女しか映らなくて。

この時、僕の世界は彼女に染められていた。


『櫂斗くん、わたしのこと、好き?』
射し込む夕焼けの赤と、はにかむ彼女の頬の赤はどちらも美しかった。

その顔を、僕はもっと見たいと思った。

その顔を、僕だけに見せて欲しいと…心からそう、思ったんだ。


『僕は――…』



……。



……。


…。



「ん…うんん……」

…意識が浮上していき、彼女の幻影が消える。
どうやら、いつの間にか眠ってしまっていたみたいだ。

「ん、起きたのか」
妙に残念そうな先輩の声が聞こえる。…何か…距離が近い気が。
僕は微妙に心をざわめかせつつ、ゆっくりと目を開けた。

そこで僕の目に映ったのは、息がかかる程に間近にある先輩の笑顔。
「うわっ!」
ある意味予測はしていたけれど、それでも驚いて。
僕は情けない悲鳴を上げて勢い良く飛び退いたのだった。


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あきゅろす。
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