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絵描きな僕とオタクな先輩。
酷い勘違い


「面倒だ」

桂木先生が捜していた事を言うと、先輩は眉を顰めてあからさまに嫌そうに唸った。
「そもそも私は、教室から出る前に『お腹が痛いので保健室に行ってきます』と言った。
教師に呼ばれるいわれはない筈だが?」
「知りませんよ」
そんな挑発的に言われても僕は当事者じゃないし、その現場を見た訳でもないんだから。
というか、その保健室に行っていたという裏付けが何もないのが問題なんじゃないかなあ…。

大きな溜め息を吐いて、僕は先輩に仕方なく進言する。
「…桂木先生だってそうじゃないですか? 本来ならまずはその授業を担当していた先生が先輩を注意するべきでしょう。わざわざいきなり生徒指導担当が顔を出すもんですかね」
あの先生は生徒と接する事を面倒だとは思わないだろうけど、こう言わないと先輩は動いてくれなさそうだ。

「お互い面倒事は早く片付けて、穏便に解決すればいいじゃないですか」
「むう〜…」
「『目立ちたくない』んでしょう?」
なおも渋る先輩に、僕はとどめを刺した。
それが効いたのか、先輩は「…仕方がないな。行くか」と溜め息混じりに腰を上げる。
そしてそのまま出て行くかと思いきや、教室の扉に手をかけた所で足を止める。

「…後輩君」
「なんですか?」
先輩の行動の意図が読めない。何だろうと思って油断していた僕に、先輩は冷や水を容赦なく浴びせて来た。

「…君、やけに桂木教師を親しく呼ぶじゃないか」
「は?」
何故、何が、どうして、そうなったんだ?
先輩の思考回路が要所要所で意味不明なのは重々理解してたつもりだけど、今回はいつも以上に言っている事がまるで解らなかった。

僕が混乱している間も、先輩は堰を切ったように言葉を浴びせて来る。
「だってそうだろう! 君はかの教師の事を『桂木先生』と呼んだ! わざわざ名前を呼んだんだよ、君っ! 私が知る限り君が覚えている教師の名は担任と美術部顧問だけだった筈なのにも拘わらず、だ!!」
「…いや、それは」
「つまり、これは私の知らない間に君が桂木教師へのフラグを立ててしまったという事なのか!? 君が昨日私からのメールを切ったのもそういう事なのかッ! 私にはフラグどころか選択肢さえ無いと!?
まさか君はアッチの人なのか! 『僕、女性には興味無いんで』とかそんな意味で難易度が高いと常々言っていたのかぁっ!!?」
「違いますよッ! や…めっ、て、下さいっ!!」
最後には物凄い形相で走り寄り、僕の肩を揺さぶって来た先輩に渾身のストップを掛ける。
ていうか勝手に人をそっち系にしないでくれ!

とにかく、嫌すぎる誤解を解くために僕も必死になって止めた。けど結局先輩が落ち着いて僕の話を聞いてくれるまでに何分費やした事か…。

何とか有りもしない誤解を解いて先輩を送り出した頃には、僕はもう体力的にも精神的にもへとへとであった…。




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あきゅろす。
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