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未来へのプレリュード
屋敷の住人達―3
「ひっどいなぁ夜宵(やよい)!ボクは本当のことを言っただけ」
「言葉が過ぎるんです。…申し訳ありません。レナシスは何時も初対面の人間にはこうなんです」
言い終わらない内にレナシスの言葉を遮った夜宵という女性は、恭しい仕草で二人に頭を下げた。それに伴って彼女の大きなポニーテールも下がる。
「あ、ああ…いえ。大丈夫です」

「…ほら、レナシス」
謝りなさい、と夜宵がレナシスの頭を掴み、お辞儀させようとする。
夜宵の手からは、傍目から見ても強い力が加わっていた。
「イタ、イダダッ!わかったよぉ!…スミマセンでしたぁ」
あからさまに棒読みの謝罪だが、夜宵の中では許容範囲内だったらしい。
ふう…と溜め息をついた後、自己紹介。
「私は夜宵。この失礼なのがレナシスです」
「夜宵ってばもぉ、手厳しいんだから〜!」
そう言うレナシスの表情は晴れ渡り、先程までの不機嫌さはどこ吹く風。
自業自得とはいえ、頭を叩かれ、掴まれた相手だというのに、レナシスは頬擦りする勢いで夜宵に抱きついたのだった。
夜宵は再び溜め息。さっきよりも深い。
「…気にしないで下さい。何時ものことですから」


これで此処にいる全員が自己紹介を済ませたことになる…かと思いきや、まだ一人残っていた。
リトゥウスとレイサーに挟まれているその少年は、襟元に掛かる程に長い前髪で左目を隠しており、露出した右目は紅玉のような深紅。
少年はカルと目が合うとばつが悪そうに目を逸らした。
「塑羅さん」
「…わかってる」
リトゥウスが小声で話し掛けるものの、場が静かな為に会話は筒抜けだった。
塑羅(そら)、というのがこの何処か中性的な少年の名前だろう。

「あー!塑羅坊ちゃんってば、初対面のヒトに挨拶も出来ないのぉ?やっだぁ、礼儀とか知らないんじゃなーい?」
夜宵に抱きついたまま、レナシスが口を出す。
すかさず「貴方が言えた事では無いと思いますが」という夜宵の突っ込みが入るも、レナシスはやはり気にした様子も無い。

「…ほんと、他の誰かならともかく、礼儀知らずとかいう言葉はあんたにだけは言われたくないね」
「へー。だったらさぁ、さっさと言いなよ。自分の名前」
「…あんただって自分じゃなくて夜宵に言って貰ったくせに」
「ボクはいいの!」
「そ、塑羅さん、レナシス君、二人ともお客様の前ですよ…」
仲裁するように、リトが口を挟む。
「…わかってるよ」
少年はそれきり黙り、暫く辺りは沈黙に包まれた。

やがて促すように全員の注目が集まると、少年は言い辛そうに。
「……塑羅(そら)」
「へ?」
「…塑羅。僕の名前」
「あっ、ああー、はい。どうも」
…こっちも取っ付きにくいタイプだな。とカルは思った。




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あきゅろす。
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