未来へのプレリュード 魔術師の家<ホーム>にて 魔術師の家<ホーム>は広く、蜘蛛の巣状になっている。 中心に魔術師のリーダーであるワインド─レイズの父親─の執務室があり、それを他の魔術師達の部屋や客室などが囲い込んでいるのだ。 食堂やら図書室やらもあり、仕事が無い時の生活には困らない。 …が、廊下が長く部屋の行き来にも時間が掛かるのが不便なところだ。 「………」 ループは一人、廊下を歩く。 水晶の床がカツカツと足音を響かせた。 目的地は…昨日中央大陸にて保護した友人が寝ている客室。 友人はループにとって可愛い弟のような存在で、消極的だが大人っぽい雰囲気も持つ不思議な少年だった。 角を右に折れる。 目的地はすぐ其処だ…が、部屋の扉に寄りかかっている男が目についた。 男はループのよく知る人間…幼馴染のレイズだった。 「……おい、ループ」 不機嫌な声。 はて…何か彼の機嫌を損ねるようなことをしただろうか? 首を僅かに傾げれば、レイズは顔を歪める。 「お前、オヤジのところに行って来たんだろ」 「…そうだけど?」 「何で一人で行ったんだよっ」 ループはワインドと先程まで話をしていた。 後日此方にやってくる翠達を、レイサーと共に暫くこの家に泊めてくれないかと頼みに行っていたのだ。 「…レイズが私と一緒に行く理由あるの?」 「オレだって翠さん達とは知り合いだろ!…それに…」 「それに?」 レイズはしまったと言いたげな顔をした。 あ〜、と呻いて頭を掻き、舌打ちをする。 「…お前、今日はもう寝ろ」 「…は?何言って、」 「うるせーな!とにかくさっさと部屋帰れ!あのガキはオレが見ててやるからっ!」 お前、いつまでもシケた顔しやがって、イライラすんだよ! レイズは突っぱねるように吐き捨てた。 レイズの言葉に不意を突かれたか、ループは目を見開く。 「……そんなに?」 「ああ。死にそうな顔してやがる」 「…そう」 「だからさっさと寝ろ。寝て気持ち切り替えろ!…あいつらが襲われたのは、お前のせいじゃねーんだから」 言い聞かせて何とかループを部屋に帰し、その姿が完全に見えなくなると、レイズはふぅと溜め息を吐いた。 …あいつにとって大切な友人達が襲われた。 それは確かに辛いことだろうが… 正直、レイズは何よりループが心配なのだ。 ループは昨日から一睡もしていないことを知っていた。 夜通し泣き続けていたことを知っていた。このままでは、ループの心が衰弱してしまうのではないか?とレイズは危惧したのだ。 けれど、照れ臭くてなかなか優しい言葉は掛けられない。 だから何処か突っぱねるような言い方になってしまうのだ。 「お前、何もしてねえだろ。なのに、なんでそんな顔するんだよ…」 [次へ#] [戻る] |