未来へのプレリュード 怪しい二人組 ──その屋敷は、中央大陸の外れにあった。 「アニキ〜…やっぱりオイラ…」 「此処まで来といて何言ってんだよ…金が要るんだろ?」 そうですけど、と青髪の男は言葉を濁す。 見たところ、屋敷は其処まで豪勢な造りではなかった。 敷地自体は広い筈なのだが、全体的に白で纏められたシンプルな色合いの壁や、これまたシンプルな無地の青色の屋根の所為か、あまりそう感じられない。 初めてこの屋敷を見た人間の殆どは、この屋敷に『二階建ての普通よりちょっと大きい家』という感想を持つだろう。 そう。一見普通の家っぽく見えるのがミソなのだ。 普通の家のように見える為、自分達の同業者はこの屋敷はまず狙わない。 この屋敷は絶好のカモだということに全く気付かずに、危険を冒して見るからに金持ちの豪邸を狙うのだ…! 「いいか。俺達は『善意の心で家々を掃除して回っているお掃除屋さん』だからな。ボロを出すなよ」 「で、でもよおアニキ。こんな一見普通に見える屋敷でも、家主は金持ちなんすよね?…もしも用心棒とか、とにかくオイラ達にとって不都合な奴らが居たら……」 屋敷より十数メートル離れた地点で、ヒソヒソと会話する男達。見るからに怪しい二人組だ。 アニキと呼ばれている金髪の男は、筋骨隆々とした重厚感のある身体つき、無精髭を無造作に伸ばしている点から隣の相方よりも随分と年を食っているように見える。 しかしその顔つきはよく見れば精悍で若々しさを感じる物であった。 隣の男は金髪の男とは相反して細身、先程からへっぴり腰な事もあり非常に頼りない印象を見る者に与えるだろう。 筋骨隆々の男はカル、細身の男がテラと言う。 カルはテラの不安感を吹き飛ばすように、自分に任せろと自らのぶ厚い胸板を叩いた。 「この屋敷には十代のガキが八人しか住んでいないってハナシだ。そんな奴が居るなんて情報は無ぇから安心しろ」 「…子供だけ…ですか…」 この屋敷が彼等にとって絶好のカモである理由は、先述の屋敷の外観に加えてもう一つあった。 この屋敷には十二〜十八歳の年頃の少年少女達しか住んでいないと、こういった稼業に力を貸す情報屋から聞いた。 子供相手なら大人より騙しやすいし、いざという時も武器をちらつかせて脅せばいい。 屋敷の外観のお陰で自分達の同業者に狙われることも無い上に、屋敷の住人は全員子供。 このような好物件、他には無かった。 「情報屋から買った情報によりゃあ、この屋敷は元々どっかの金持ちの別荘だったらしいが…四年前に今の住人であるガキ共に受け渡したらしい」 「…何でそんなことしたんすかね」 「さあな。金持ちの考えることなんて俺らにゃ理解出来ねえよ。…それよりほら、さっさと行くぞ」 屋敷に向かって駆け出すカル、それを見て慌てて後を追いかけるテラ。 余計な邪魔をされないよう、住人達が一堂に会するらしい昼時に来たのだ。無駄話をしている暇はもう無い。 …そう。彼等は、盗人なのだ。 [次へ#] [戻る] |