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未来へのプレリュード
残ったのは、ひとり。

「ルシアン…」
カロレスは茫然と呟く。輪郭がぼやけ、今ここに強い風が吹けばふっと消えてしまいそうなルシアンの姿は、まるで霊体のように頼りない。
「…そうか」
翼は疎か、頭から爪先まで黒に染まるルシアンからは表情が読み取り辛い。が、その声色はどこか諦観を漂わせていた。

「オレは結局、ひとりになるのか」

ルシアンはひとり、渇いた笑い声を上げる。と、彼の足下にある『カロレス』の亡骸が溶けるように消えていく。
「カロレス…ッ」
未だ完全に傷が癒えていないカイレンは、追いすがるように手を伸ばす。が、それは虚しく空を切った。
同時に、カロレスとカイレンに付着していた『カロレス』の血液も跡形も無く消え去った。
目を見開いて、『カロレス』がいた場所を穴が空く程に見つめるカイレンを、ルシアンは目を細めて見下ろす。
空虚な瞳は一体、何を宿しているのか。それは誰も知り得ない。

「オレは人間の心を舐めてたみたいだな。…まさかあの時、カロレスが『止まる』なんて思いもしなかった」
あの時、とは。天使の翼を携えて復活したカロレスを討とうとした『カロレス』が、何故か攻撃の手を止めた時の事だった。
「…!」
ルシアンの言葉に、カロレスは目を見開く。
カロレスは疑問に思っていたのだ。あの時、『カロレス』の動きが止まったお陰で致命傷を負わせる事が出来たけれど、自分を憎み向かって来た彼はどうして剣を握る手を止めてしまったのか。
「あいつはお前の事を、あれほど憎んでたっていうのにな」
カロレスに同意するようにルシアンは言い、その視線はカロレスの胸元へと移る。
「ラファールの存在が、それだけあいつにとって大きかったんだろうぜ」
ふう、と溜め息を吐くルシアンは、自嘲するような笑みを浮かべて。

「天使も人間と同じ、『心』を持っているんだって最初に言ったのはオレなのにな…カロレスの感情を理解しきれていなかった」
その言葉は先程の、『人間の心を舐めていた』という言葉に掛かっているのだろう。
酷く落ち着いた様子で、ルシアンはカロレスを見据えた。

「さて、どうする? オレの封印は中途半端に解かれたからな…このまま消滅する、なんて都合の良い事は無いぜ?」
まるで試すような台詞に、カロレス達は疑問を覚える。
「どういうつもりですか? かつてこの世界を滅ぼそうとした貴方が…」
ヴィリルはルシアンを探るように睨みつける。
彼に視線を移したルシアンは、過去の遠い日を思い返すように目を細めた。

「あん時とお前は変わってねぇな、ヴィリル。クソ真面目なガキ。リウェルゥとは違ったタイプの模範生サマだよ」

自分も意思も何も持たず何も考えず、ただ精霊神に従う事しかできない天使や妖精。
それらはルシアンがもっとも嫌う存在だった。

当時、まだ地上に堕ちる以前のルシアンの主張を思い出し、ヴィリルは何とも言えない気分に苛まれる。




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あきゅろす。
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