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未来へのプレリュード
齎された感情


そうしたやり取りを経て渡されたのは、何の変哲も無い紐が括り付けられた件の水晶だった。
それは『お近付きの印に』、『おじさんのせいで怒られちゃったお詫び』だなどとおちゃらけたような言葉とともにカロレスの手に戻ってくる。

カロレスはペンダントとなった水晶をそっと首に提げた。
『うんうん、似合う似合う』
言って自分の頭を軽く撫でてくる男性に、カロレスは何だかくすぐったいような気分になる。
兄や他の大人達とは何だか、違う。カロレスは無意識の内にそう思っていた。
その感情は恐らく、小さな子供が本能で甘えさせてくれる大人を慕うものだったのだろう。

けれど。
カロレスにとってはこのラファールという人物との出逢いは、何にも代え難い思い出で。
そんなカロレスがラファールの事を次第に父親のように思うようになっていったのも自然な成り行きだったのだ。



――しかし。


『…ルー。…ぼく、ルーっていうんだ』


カロレスにとって、ルーは邪魔者以外の何物でもなかった。

何故なら、ルーには父親という『自分には無いもの』を持っているから。
(…それなのに、独占しようとしない)
自分や兄がラファールに甘えているのを、いつも遠目で寂しそうに見ているだけで。

何故なら、ルーがそこに存在する事で『ラファールは自分の父親ではないのだ』という事を否応無しに見せ付けられるから。
(…それなのに、時折こっちに同情するような目を向けてくる)
いつもは、自分が父に甘えられなくて寂しいと目で訴えているというのに。

そんなルーが不可解で、苛立ちを覚えていた。
ラファールの存在がカロレスの中で大きくなると同時に、ルーに対する感情はどんどん悪い方に向かっていって。


『ルーはレンにいちゃんを傷つけて、ラファールおじさんを怒らせて。ルーはボクの好きな人たち、みんなを悲しませるんだ!!』

爆ぜた感情は奔流となって、止まることなく流れ落ちる。

『いつもいつもラファールおじさんに構ってほしいって目だけで訴えて、自分はなんの行動にも起こさずにただ待ってるだけ…そんな自分勝手なルーなんて…ボクはだいっ嫌いだっ!!』


…それから間もなく、大好きなおじさんは誰でもないルーを庇って死に、自分も殺された。

――こんな結末、おかしいとは思わないだろうか?

何故、なぜ自分達は死んだ?
…あの時ルーが突然現れたからだ。

何故、なぜ自分達が死ななければいけなかった?

…なぜ、ルーは生き延びた?
答えは簡単、おじさんに助けられたから。


――カロレスの中の憎しみが溢れ出す。

おじさんを殺したのはあいつなのに。息子として父親に助けられた身なのに。

それなのにあいつは、その記憶を捨ててのうのうと生きた。

おじさんの死を無駄にして、自分だけ幸せになろうとしたんだ、と。


だからカロレスはルーを許さない。許す事など、未来永劫出来やしない――…。




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あきゅろす。
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