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未来へのプレリュード
赦し


僅かな光源があるとはいえ、暗闇の中をただひたすらに黙って進むというのはなかなかに辛い。
長く続いた沈黙に耐えきれなくなったレイサーは、前を歩くカロレスのマントの裾を軽く握った。

「ね、ねぇ…カロレス」
「ん? どうした」
レイサーの行動に気付いているのかいないのか、カロレスは歩きながら返答する。
「カロレスは…あのひとに対して、怒って…ないの?」
「あの人? ……あぁ」
レイサーの言い辛そうな雰囲気に、カロレスは『彼』の事かと推測し、問い返す。
「カロレスの事か?」
「……うん」
恐る恐る、レイサーは頷く。その様子はカロレスからは見えないけれども、彼は空気でレイサーの不安を感じ取ったらしい。
「別に気を遣わなくていいぞ」と告げた。

「怒ってないの、か…」
それは数日前に自分がカイレン達に言った、『戦う覚悟はあるのか』という問いとは似て非なるもの。
『カロレス』に対して、怒っているか。
…かなり柔らかな表現だ。実際は『憎んでいるのか』と聞きたいのだろう。

カロレスはレイサーの問いに、暫し考える。
その間も三人の足は止まらず、時折扉を見つけてはそれを押し開き突き進んでいく。
レイサーは答えを緊張した面持ちで待ち、ヴィリルは二人のやり取りを静観している為、次に口を開いたのもやはりカロレスだった。

「怒ってるのか、怒ってないか。…そのどちらかかと聞かれれば、やっぱり俺は怒ってるんだと思うよ。でもそれは、『憎しみ』じゃあないかな」
レイサーの表現に則りつつ、『憎しみ』の可能性を否定したカロレスは、それを体現するかのようにさっぱりした様子で続ける。

「カロレスは皆を傷つけようとする。それが嫌だから俺はあいつと戦うし、あいつに対して怒ってるんだと思う。
…でも、カロレスからすればその元凶は俺にあるんだ」
自分が十一年前に間違いを起こさなければ、という思いだって確実にある。
だから怒りを感じる事はあれど、決して憎む事は出来ないのだとカロレス。
彼の素直な言葉に、しかしレイサーは「…そうなんだ」としか返せなかった。
つまるところ、何と返していいのか解らなかったというのが本音だ。

「自分が原因だから、貴方はそれで貴方自身に向けられる敵意を赦すというのですか?」
その時、それまで黙っていたヴィリルが口を開く。
静かな問いには、彼のカロレスに対する純粋な疑問以上の感情が籠められているようだった。

「…敵意を赦す、ですか。…難しいですね」

――過去に自分が罪を犯したからと、相手から受ける憎しみ全てを許容し、受け止めるというのか。
…例えその結果、自分の命が脅かされようとも。




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あきゅろす。
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