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未来へのプレリュード
責め人はおらず


――カロレスが語り終えても、未だ沈黙は辺りを支配していた。
それは、何故だろう。彼の、彼らの過去に、翠達は何を思っているのだろうか?

カイレンと燐火は、そっと顔を見合わせる。どちらの表情も、決して明るいとは言えなかった。

「…俺の昔話は、これで終わりだ。
…皆、長い時間付き合ってくれて…ありがとう」
そう言い、カロレスはふっと笑顔を浮かべる。
だが、それはどう見ても無理をしている笑顔。見ているこちらの胸が締め付けられるような、痛々しい…笑顔だった。

「カロレス…」
翠が口を開く。無意識に、目の前の彼の名を呼んだ。
それはとても小さな声だったが、この沈黙だ。カロレスどころか部屋にいる全員の耳に入る事となった。
カロレスは痛々しい笑顔のまま、翠の方に顔を向けて。
「…ごめんな」
そう呟き、ここにいる面々の顔を見回した。

「翠も、先生も、皆も……ごめん。聞いていて気持ちの良い話では…無かったと思う。
…でも…俺、…聞いて欲しかったんだ。今まで皆に黙っていたけれど、本当に我が儘な気持ちだけれど…それでも。
……そうしなきゃ…未来に、俺は進めないと思ったんだ」
カロレスの声は穏やかだったが、最後の言葉には強い意志が秘められていた。
「俺はもう過去を忘れちゃいけない。…もっと、強くならなきゃいけない」
また過去を亡くすような事があってはならない。それは自分に関わった全ての人に対する冒涜だ。
――だから。

「今までにあった辛い事も、…悲しい事も、俺は受け入れなきゃな」
それがどんなに『忘れたい』記憶だったとしても。
自分はそれを受け入れなくては、未来へは進めない。
そうしなくては、本当の『カロレス』とも向かい合う事は出来ない。

「…カロレス」
その時、リウェルゥは口を開いた。彼の声色はまるで傷物に触れるようだ。
「先生…すみません」
何を謝っているんだ、なんて聞けるはずがない。
…ラファールの事に決まっていた。
「父さんが死んでしまったのは、…俺のせいなんです。父さんが死んだ原因をつくったのは、誰でもない俺で。…挙げ句の果てに、俺はその罪を忘れて」
「お前がそれを罪と思う必要はない。記憶を亡くしていたのも、仕方がない事だ」

当時のカロレスは、まだ八つの幼子だった。
目の前で父を亡くし、友人とも擦れ違い。
仕方がない、としか言いようが無いではないか。少なくとも、この場にいる者達には他の言葉が見つからない。
記憶を亡くしたのも、あまりに辛い出来事が重なった為、無意識に防衛本能が働いたのだろう。
…心が、壊れないように。

それを誰が責められる? 罪だとなじる事が出来る?
(そんな事、決して出来やしない…)
リウェルゥはそう心の中で呟いて、無意識に唇を噛んだ。
その姿を、カロレスはどう受け取ったのか。

「…でも、…すみませんでした」

瞳の奥の光を惑わせながら、謝罪を重ねたのであった。




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あきゅろす。
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