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未来へのプレリュード
それぞれの行動―2

レナシスは部屋から出ると、各階の中心に位置する階段まで歩を進める。
向かうのは森の大陸の人間が集まる、他の部屋よりも格段に広い大広間だ。

階段まで来ると、自然に出て来るのは溜め息。
上への階段、下への階段。レナシスが使うのは下への階段だ。
階段の一番上から階下を見下ろす。先は見えない。
地下へ行く毎に深まる暗闇が、レナシスの気分を果てしなく降下させていた。

もう一つ、気分が降下する原因がある。
(空気がイヤだ)
森の大陸の人間が放つ、ねちっこいような、こちらにまで纏わりつくような暗い空気だ。

どうしよ、やっぱり行くの止めようかな。そんな考えが頭を過ぎるが、…先程のリトの嬉々とした顔を思い出す。
(ホントは自分が塑羅のとこに行きたいんだろうなぁー)
けれど出来ないから、現在フリーである自分に頼んで来たのだろう。
…自分と塑羅が、『喧嘩するほど仲が良い』間柄だと見られている事なんてレナシスは知る由も無い。

仕方なしと諦め、深い溜め息を吐きながらレナシスは階下へと歩を進めた。



大広間の前に辿り着くと、レナシスはまず扉に耳を当ててそばだててみた。
微かにだが、声が聞こえる。…子供の声。レナシスも聞き覚えのある声も混じっていた。
(今なら入っても大丈夫そうかな)
塑羅の声は聞こえないけども。意を決して、レナシスは扉に手を掛けた。

ぎぃぃいい。軋むような音を立てて、扉が開く。
その音に反応したのは一握り。片手で数えられる人数だ。

「レナシスおにーちゃん!」
森の大陸の人間に水を渡していた妖精の少女が、軽やかな足取りでレナシスの元へやってきた。

彼女…フェアルは、ジュアリィの襲撃事件の際、親の助けで水晶の大陸へと逃げて来た妖精の一人だった。
レナシスはフェアルに挨拶を返しつつ、周囲を見回す。
連れて行かれずに済んだのは、彼女と同じもしくはもっと年下の子供達だけだ。
それぞれ妖精がフェアル含め二人、天使が三人。彼女達は精霊神や守護天使達の手伝いを請け負っていた。
最初は泣いてばかりだったというのに、今は小さいながらも、誰かの役に立ちたいという心持ちで動いているのだ。

(…うへっ)
レナシスは心中で呟く。先程までフェアルが話していた森の大陸の人間が、こちらを睨み付けていた。
…いや、本当はただ見ているだけで睨み付けているわけでは無いかもしれない。けれど、少なくともレナシスの目にはそう映った。
俯きがちに、光の無い目玉だけを動かして見つめられれば、そう映っても仕方がないとレナシスは思う。

「レナシスおにーちゃん?」
「…別に。何でもないよ」
「れなしす…」
二人の所に、また一人子供がやってきた。
レナシスに水の入ったグラスを渡すのは、フェアル達とともに手伝いをこなしているティオだ。
レナシスはありがと、とグラスを受け取った。そしてそれをすぐさま呷る。
少し渇きを感じていた喉がたちまち潤った。

「…で。塑羅、知らない? ここにいるって聞いて来たんだけど」
レナシスはグラスをティオに返しながら、目的の人物を捜す。
しかしこの部屋にはいないように思われた。
「塑羅おにーちゃんはちょっと前に、凪沙おねーちゃんと族長さまと一緒にどこかに行っちゃったの」
「てんしさんにつれられて…」
「あー、そう…」
二人の返答に、レナシスは頭を掻いた。
(ホントにお取り込み中みたいだねぇ)

場所も分からないし、分かったとしても…今は邪魔をするだけな気がする。
仕方がない、リトにはこの事を伝えよう。


そう結論付けたレナシスは、二人に礼を言いつつ部屋を出て行った。





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あきゅろす。
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