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未来へのプレリュード
深い闇


闇夜が包み込む一室に佇むのは、ルーの身体を離れ自らの身体に戻ったカロレスだった。
「ねーぇ。どうしてあの時力を貸してくれなかったのさ」
カロレスは久々に動かす身体の感覚を確かめつつ、自らの内に居るルシアンに声を掛けた。

あの時とは、リウェルゥがペンダントの封印を解こうとしていた時だ。
何を思ったか、あの時ルシアンは抵抗するカロレスに力を貸さなかった。
元々人間の身体を乗っ取る力は、ルシアンから与えられているもの。
そのルシアンが力を貸さなかったから、カロレスは身体の主導権をルーから奪えなかったのだと口を尖らせた。

カロレスの言葉に、ルシアンはククッと愉快そうに笑う。
その気に入らない反応に、何が可笑しいと食ってかかるカロレス。
ルシアンはその態度すら笑い飛ばしながら理由を告げる。

――あいつの闇が、面白かったからだ。

「はぁ? 何ソレ」
ルーの抱えているものになど興味が無いカロレスには、ルシアンの考えは到底理解出来なかった。

――あいつもお前と同じくらい深い闇を持っているというのに、その感情のベクトルが正反対だったからな。だから見ていて愉快だったのさ。

ルシアンの言葉に、カロレスは舌打ちをして。
「ボクは今、とっても不愉快だよ」
――何だ。お前から聞いてきた癖に。

ルシアンの最もな意見を聞き流していると、部屋の扉が開く音がした。
カロレスは特に気にする様子もなく、いつも使っている椅子にドカッと座り込む。ここに来る人間など、自分を覗けば一人しかいない。

訪問者はツカツカとカロレスに歩み寄り。
「帰って来たのか」
しかもその姿を見るに、失敗したのだな。と言葉を投げかけた。
「うるさいよ」
今のカロレスをさらに不愉快にする言葉を口にするのは、片眼鏡の男だ。

「ルシアンが協力してくれなかったせいでこのザマさ。全く、もっとアイツの大切な物ぜんぶを壊して壊して壊し尽くしたかったのにさぁ」
まるで小さな子供が、親が玩具を買ってくれないとごねるような言い草だ。
カロレスのそんな態度は見慣れているのか、男は気にする素振りも見せず言った。

「それは、奴の身体を使わなければ出来ない事なのか」
「そうじゃないケドさ。んでも、その方が効果覿面なのは確かだね。…何だっけ、リウェルゥ? だっけ、あのムカつく天使もかなりビックリしてたしね。あの顔は愉快だったなぁ。レン兄さんも、……」
次から次へと言葉を紡いでいた口が、急に閉じる。

「…兄に会ったのか」
「……んー。でも、結局のところレン兄さんもアイツがいいみたい。…ほんっとムカつく」
「…そうか」
「アレ、そーいやアンタも兄弟いるんだっけ。たしか〜…」
記憶の奥底からその情報を引っ張り出そうとするも、なかなか出て来ない。
その様子を見かねたのか、男は「…妹だ」と告げた。

「…あ、あぁ〜! 妹ね!」
「だが…もういない。…遠い過去の話だ」
暗闇の中、カロレスには男の表情は見えない。
けれど、その言葉の中には様々な感情が巡っているように感じられた。
「へー。そう言うわりには、何か気にしてるっぽいケド」
「お前に言われたくは無いな」
「ちぇ。ああ言えばこう言う」

…まぁいいや。とにかく。

「暫くボクは休もうかな。久々に自分の身体を使うから、また慣れないと」
お前もそうだろ?と聞けば、男が首肯したのを気配で感じた。

「今回は想定外の事があって失敗したけど…ボクの目的は変わらない」


今の内に幸せを噛みしめて置きな、ルー。

そこからまた、絶望の底へと引き摺り下ろしてあげるよ…――…。




END.




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