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未来へのプレリュード
最後のチャンス

「えっ?」
その時、レイサーが所持していた鞄が光った。
正確に言えば、レイサーが所持していた銀の札、灰色の石、そして金に輝く小刀が鞘越しに煌めいていた。
いずれも、以前精霊神から譲り受けたものだ。結局未開の大陸まで辿り着かず戻って来てしまった関係で使わなかった物だ。

銀の札は以前にも増して光を増し、灰色の石はそれぞれ別の方向を指し示すように二筋の光を発していた。
これはルシアンの封印への道筋を示す物だったはず。一つはこの宮殿内にある封印だろうが、もう一つは一体…?

「もしかして」
ルシアンに近しい存在、もしくはルシアン自身が近くに居る――?
いや、まだ全ての封印が解かれたわけでは無いのはこの石が示してくれているではないか。つまりルシアンはまだ復活していない。

しかし。
過去、ルシアンは人間を操る能力を得ていたという話がどうにも引っかかる。
もしも、もしもいくつかの封印が既に解かれており、ルシアンの力が僅かに復活しているとしたら…?
この石が指し示している、もうひとつは。

「ルシアンに加担している、もしくは操られている人…?」
四人の結論は同じだった。




「なっ、何を言ってるんだ!! ルーがお前やおじさんを殺したッ? そんなわけがっ」
目撃者の情報から、犯人はルーではない事は立証されている。
だというのに、当事者である弟は…ルーが犯人だとでもいうのか…?

「殺したも一緒だよ。…あいつが居なきゃ、ボクらが殺される事なんてなかったんだ」
冷徹に吐き捨てたカロレスは、カイレンに不気味な程優しく微笑みかける。

「レン兄さん。だからボクはアイツが許せないんだ。アイツは恩知らずの殺人者だよ。
…しかももっと罪深いのは、アイツは都合良くその罪を忘れて、自分だけ幸せを掴もうとした。…そんなの、誰が何と言おうと絶対に許せない」
しかし、段々とその声が、表情が憎しみに歪んでいく。

「ボクはルシアンと契約を交わした後は、何年も何年も自分の身体を回復させる為にある場所で留まっていた。そしてその間も、ずぅっとルーを監視していたんだ。
アイツは自己満足と現実逃避に日々を費やしていたよ」
剣を持っていない左手をかたく握り締める。
「そして身体が完全に元通りになったボクは、かねてからの計画を実行に移した、ってワケさ。中央大陸の…そう、歌姫レナだったかな。あの事件はボクが主犯だよ。
歌姫を操って、ルーに深手を負わせた。アレがボクの復讐のハジマリ」
「! お前がっ?! お前が、レナをっ…!?」
「え、知り合いだったの? …あー、だからあの子はルーの名前知ってたのかぁ、どーりで」
カロレスは兄の反応をさほど気に留めず、さもどうでもいいと言った風に話を流そうとする。
「お前、解ってるのか?! お前は今、世界中を敵に回して」
「いいよそれで。ボクはアイツに復讐したい。ルシアンは協力してくれるって言った。協力してくれないレン兄さんより、よっぽどボクの事を解ってるよ」
「…!!」
弟の言葉に、カイレンは目を見開いた。

「しっかし、悲しいなぁ。まさかレン兄さんがルーの事を探してるだなんてさ。もしかして燐火も一緒とか? …はぁーあ。ヤダねぇ」
それでさ、

「レン兄さん。これが最後のチャンスだよ。…死にたくなければ、ボクと一緒に来て。信じてくれないかもしれないけど、ボクは出来ればレン兄さんは殺したくないんだよ? もう唯一の肉親だしさ」
「……っ」
『最後のチャンス』。弟カロレスはそう言った。
…この誘いを断れば、例え肉親と言えども、弟は兄を始末しようとするだろう。自分の復讐の道を妨げる者として。

「………」
「早く…、レン兄さん。…答えを、聞かせて…?」
焦れたように顔を近付けてくるカロレス。
その顔は、カイレンが長年捜して来た親友のもの。記憶よりも幾分成長しているが、紛れもなく親友のものなのだ。

「……」
カイレンは強く拳を握り締める。どう考えても、道はひとつしか無かった。
「心は、決まった?」
「……ああ」

カイレンはゆっくりと、一歩だけ後退る。
そしてカロレスを見据え、しっかりと視線を合わせて、告げた。




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あきゅろす。
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