未来へのプレリュード 世界の真実―2 「…そして、自らの国を滅ぼされたフロッツが、やがて仲間達と共にルシアンを倒し封印したのじゃ」 これが大陸神話で語られていたことの真実。 遙か昔からなる途方も無い話に、レイサーは少々頭が回らなかった。 「…なるほど。封印、ですか」 納得したように言う鈴音に、精霊神は頷いて。 「そう…多くの人間の力を吸収したルシアンは完全には倒せなかったのじゃ。儂が創り出した十二の器に霊体となったルシアンを封印するのが精一杯じゃった」 身体が朽ちて霊体となろうとも、ルシアンは戦うことを止めなかったのだ。 「十二の器の内、十はフロッツ達が一つずつ持ち、堅く封じた。今はそれぞれの社にある筈じゃ」 「社に?」 「ああ。そもそも社はその為に造られたのじゃよ。時が流れるにつれ、過去の英雄フロッツ達を崇める信仰が生まれたのじゃ」 「そうだったんですか…」 次々と明らかになっていくこの世界の真実に、一同は驚きを隠せない。 社は元々はルシアンを封じる為の器を仕舞う場所だったなんて…。 「あの、もう二つの器はどうしたのですか?」 「一つは、この宮殿に。もう一つは…お主等が『未開の大陸』と呼ぶ地にある」 「!!」 「儂がお前達を呼んだのは、この未開の大陸に行きルシアンの封印を強固にして貰いたかったのじゃ」 未開の大陸は三百年前から急に暗闇に覆われていった大陸だったのだが、数日前―ちょうど地上でのあの事件の日―から何故か闇が濃くなり、精霊神すらも見下ろすことが出来ない程になってしまったのだ。 もしかするとルシアンの封印が解けようとしているのかもしれない…。 精霊神は天使を向かわせようとしたが、天使にはあまり闇の耐性は無い。 真偽は定かではないが、未開の大陸の闇はルシアンの封印が弱まり、その力が微弱ながら漏れだしているのではという噂まである。放って置く訳にはいかないのだ。 天使や妖精が闇に弱い。 それならば、人間の力を借りるしかない。 情けない話だが、と精霊神は密かに自嘲した。 「…どうじゃ、やってくれるか?」 レイサー達は顔を見合わせ、誰からともなく頷いた。 「…色んなことを聞いて、正直頭の整理が追い付いていないところもあります。…でも、これはきっとスキルやカロレス達にも繋がっていると思うんです」 レイサーはあの日の出来事を思い出す。 レナも他の人間も様子がおかしく、まるで何かに操られているかのようで…。 勘ぐり過ぎかもしれないが、もしかしたらルシアンが持つ『人を操る力』に何か関係があるのでは? それを追えば、スキル達の手掛かりも掴めるかもしれない…! 「…俺も、全ての真実を知りたいんだ。その為なら…何だってやってやる」 カイレンもレイサーに次ぐ。 「私達、やります!」 「全員、思っていることは同じのようですね」 翠や鈴音達も頷いた。 見守っていた精霊神は嬉しそうに礼を言った。 「さて、と。未開の大陸の封印についてじゃが…」 言い、精霊神は傍らの天使から銀の札と金の小刀、そして灰色の石を受け取ってレイサー達に掲げて見せる。 「封印はここと同じ造りの宮殿の最奥にある。道は灰色の石が導いてくれるじゃろう」 「施された封印にこの銀の札を貼り付けて下さいませ」 精霊神から再び受け取って、天使が説明しつつレイサー達に手渡す。 銀の札は白銀の光沢を放ち、つるつるとした触り心地だ。 対して灰色の石に輝きは無く、どんよりとした曇り空のような色をしていた。 「小刀は?」 レイサーは金の小刀を掲げてみる。 壁に敷き詰められた宝石の光を反射し、煌びやかに光を放つ。 「宮殿に行くまではこれを頼りに進み、その後宮殿の前の地面に刺しておくれ」 フェアルがそうしていたように、精霊神を始め天使や妖精達には天界から地上の何処へでも行ける転移魔法が使えるのだが、未開の大陸は深い闇に覆われていて好きな場所に転移することが出来ないらしい。 精霊神を持ってしても全体を見下ろすことが出来ない闇。しかし精霊神の力を与えたこの金の小刀なら照らすことが出来るのだ。 これをもってしても未開の大陸全体の闇は晴れないかもしれないが、宮殿前に刺して置けばそれ以降は転移魔法で行ける筈。 「転移魔法が使えない…ということは、森の大陸を通ることになりますね」 「!!」 「そうじゃ。彼処にはレスタルが残した文献も残っておる。儂の名を言えば通してくれる筈じゃが…念の為、天使を一人お前達に同行させよう」 「でも、天使は闇に弱いんでしょう?」 「仕方が無かろう。…それに、その天使の実力は他の天使よりも格段に上じゃ。奴ならお前達の力になれるじゃろう」 その天使は他の天使とは違う役目を負い、ジュアリィを離れ二十年以上地上で暮らしていたが、数日前にジュアリィへ呼び寄せたとか。 「…さ!長い話は終わりじゃ!出発は明日にして、今日はゆっくり休んでおくれ!」 精霊神はそれまでの緊張で引き締まった顔を緩め、空気を入れ換えるように手を叩いた。 途端、精霊神の玉座の後ろの部屋から二人の天使と四人の妖精が入ってきた。 天使達はレイサー達に一礼し、柔和な笑みを浮かべる。 「皆様、夕食の準備が出来ております。どうぞこちらへ」 [*前へ][次へ#] [戻る] |