未来へのプレリュード 『姉』 「旭ー!」 …あっ。 自分の好きな人が、宿屋の窓から顔を覗かせて手を振ってくれていた。 それにより、帰らざるを得なくなる。 「旭、お帰り」 自分達に割り振られた部屋に戻ると、好きな人が優しい笑顔で出迎えてくれた。 …旭は、この笑顔が大好きだった。 初めて『自分』を『自分』としてくれた、彼の笑顔が。 仲間は、まだ帰って来ていない一人を捜しに行ったらしい。 そう伝える彼の言葉に旭は相槌を打ちつつ、部屋を見渡す。 そう言われてみれば、二人共居ないわね……って! 彼の周りに置いてあった道具を見た途端、旭は声を上げた。 「燐火さま!メンテナンスはあたしが居る時にって言ったじゃない!」 「ああ、ごめんごめん。何時も旭に頼りきりだからさ。少しは自分でちゃんと出来ないとと思って」 好きな人──燐火は、四年前に起こったある事件から、右腕が機械となっていた。 所謂サイボーグとなってから、定期的にメンテナンスをしなければならなくなった右腕。 それは普段なら燐火に好意を寄せる旭がやっていたもので。 自分に黙ってメンテナンスをしていた燐火に、旭はむっとした。 旭の様子を特に気にすることもなく、燐火はニコニコと笑っていた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |