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小説〔短編集〕
短編小説「正月」



「ん・・・・・・・あれ?」
確か昨日は、朝まで寝まい、とはりきっていたはず。でも、この寝起き独特の気だるさはなんだ。やっぱり寝てしまっていたか。
付けっぱなしのテレビを消してリビングの窓を開放する。冷たい風が身に沁みる。そのままキッチンに足を運んで机上の食パンを口に咥えて寝室に向かう。
「あー、寒い」
一晩放置した部屋はリビングでは想像がつかないほど寒かった。すぐさま暖房をつけるが、部屋が暖まるまでしばらくかかるだろう。一時リビングに撤退して待つことにした。
窓を閉めてテレビの電源を入れる。正月は特別番組が多いから暇をしなくていい。
すっかり見入ってしまって寝室にあった用事さえ忘れてしまった。

年は明けたが、そんな気もせず、一人じゃそんなにテンションも上がらない。テレビの向こう側の人達とまるで正反対だ。
初詣行こうかな。でも寒いから動きたくない。
またテレビを消して寝室へ行ってみる。さっきとは打って変わってすっかり暖かい。布団に潜りつつ、暖房がない時代は大変だったんだろうな、と笑ってみる。
昔からある、永遠の疑問、"過去"。私が知っているのは、知ることのできるのは"今"だけ。
昔は「学校のない時代に行きたいな」とか歴史の教科書を見ながら考えていたっけ。今となっては馬鹿馬鹿しく思う。それも、今の暮らしがそれなりに満足できるものだからなのだろう。
でも、行けるのなら、過去や未来に行ってみたい、という気持ちはないわけではない。それは多分「見たことないものを見てみたい」という純粋な好奇心なのだろう。別に「過去を変えたい」とか「未来を知りたい」とか、そんな理由ではないことは確かだ。
忘れた過去に想いを残し、見えない未来に不安を抱く。結局、私が生きることができるのは今だけ。過去や未来に今を生きている私は存在しない。だからこそ、全ての存在は今を大切にするべきだと思う。過ぎた時にしがみつくことも、何もわかることのできない未来を真剣に悩むことだって、無駄とか無意味だとか、そこまで言わないけど、ただ今だけを信じ今を一所懸命に生きることには勝らないと思うから。
昔は未来を掴もうとした。すがりつくだけの過去がないから。
今は過去を呼び戻そうとする。暗い未来に不安を覚えたから。
強がっていても、やっぱり過去というものが恋しくなる時もある。家族4人で過ごした、楽しい日々の記憶が。
もう戻ってこない。きっと今帰ったとしても、あの頃と同じように接することはないだろう。
だんだんと意識が朦朧としてくるのを感じた。暖かい部屋のあたたかい布団の中にいれば、その気はなくても眠くなる。
また、起きる気もないので、しばらくは夢と現の境界をふらふらしていよう。次に目を開けるときは、忘れた用事をきっと思い出そう。

夢を持つのは過去があるから。
夢を見るのは未来があるから。
そして、夢を叶えようとする今がある。
明日は、初詣に行こうかな。

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