[携帯モード] [URL送信]

がくえんぱられる。
@

 俺も一応今年で三年生。
 つまりはまあ卒業生だから、今年の文化祭を立案した後晴れて後輩に役目を譲るわけになる。
 自分で言うのも何だが俺はそこそこの家に生まれた。だから将来的には家を継ぐことになるんだろう、とは父上の弁だ。俺はそれに別段不満を抱いたこともないし、それがあるべき形ならばそうするのが妥当だと、あくまで俺個人は思っている。本当なら兄貴か姉貴が継ぐべき、というのが世間一般的な流れなんだろうけれど、彼らは彼らでちょっとした問題があるのだ。

「だーかーらー! 今年はもっとこうドバーン! って感じで!」

 そこまで考えて、クソやかましい生徒会長の派手な声に意識を強制的に戻されて俺は露骨に顔をしかめる。擬音で会話をするのは止めろとあれほど言っているのに、直そうとしない。俺は黙って立案を見て、派手に破り捨てた。

「だー! 何すんだよリュウー!!」
「ふざけんじゃねえ、こんなバカな案が通るか」

 何でー! と金髪を振り乱して生徒会長、ケインがわめく。
 生徒から圧倒的な人気を誇る超有名人。眉目秀麗、頭脳明晰、運動神経も抜群。まさしく、人間の集大成なんだろう。
 このふざけた性格を除けば。

「……僕も反対です、第一職員会議で引っ掛かるでしょう?」

 控えめに提案したのは、二年のアルフ。役職は副議長。どうでもいいが俺は副会長で書記は怜。議長は、いつものように遅刻してきてまだ姿を現していないから割愛しておく。
 生徒会室の窓からは新緑が瞬いている。ざ、と風が吹いて葉を揺らす。
 狭い生徒会室はケインが「花火は外せない!」と殴り書いているホワイトボードを入れただけでもういっぱいいっぱいだというのに強引に机と椅子なんぞを置いているから正直動きにくい。せめてもっと広い部屋をあてがって欲しかった。これでは寮の部屋と大差が無い。
 がら、と乱暴に戸が開けられたのはそんな折。夕日色の髪を結わえてだらしなく制服を着崩している生徒が「よっす」と笑いかけてきた。

「遅えよ虎牙(こが)」

 俺がそう言ってのけてやると、虎牙は悪びれもせず議長席に腰掛けた。怜は虎牙を一瞥して、また視線をノートに戻した。

「いっやあ、今日だって忘れてた」
「バカかてめえ、昨日あれほど言ったろうが」

 そうだっけ? と虎牙は首を傾げて唐突に眼鏡を押し上げる。どうやらホワイトボードを注視しているらしい。ケインはそこでようやく虎牙に気付いたのか「おっせえよお虎牙っちい」と唇を尖らせていた。

「わっりいわっりい、ガチで忘れててカラオケ行くとこだった」
「何だと! 俺も誘えよなあ!」
「やだね、お前と行くと話題かっさらっちまうからな」

 虎牙はくくっと笑いながら議長席に置いてある問題の立案に目を通す。数度目をしばたいて、ケインを見上げた。まさか。

「俺は乗ったぜ!」
「虎牙っちならそう言ってくれると思ったぜ!」
「お前らー!!」

 バカの隣には、バカしかいない。一応言っておくが虎牙はバカというわけではない、バカみたいな騒ぎが大好きな困った野郎なのだ。ケインはおそらく、真正のバカだろう。
 労わりの視線を怜が向けてくる。怜は小さな時から俺の家に仕えていて、今回の高校選択も当然のように俺のいるところを選んで、合格して今に至る。俺としては怜には怜の人生を歩んで欲しい、というのが正直な意見なのだが、俺の存在こそが怜の存在意義なのだと聞かされてからというもの、それを口に出せずにいる。生徒会に入ったのだって多分俺のためだ。本当なら、放課後に女友達と遊びに繰り出したい年頃だろうに。
 などとまるで保護者のような心境に浸っている間にも議論は進行してしまっていた。

「よーっしじゃあ今年の文化祭は『サンバでゴー!』だな!!」
「ふざけんなこのクソ会長がああああ!!!」


[次へ#]

1/3ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!