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がくえんぱられる。
A

「あー、あいつら血縁関係ねえってよ?」
「……何でお前が知ってるんだケント」
「本人に聞いたんだって」

 その後さっさと帰宅しようとした僕は、よりにもよってケントに捕まってしまい、何故か二人仲良くファーストフード店で食事を取っていた。しかしまあ内心、何でこいつと飯食ってるんだろうと思わないこともない。
 ケントは不思議な奴だ。すぐ、人の懐へ入ってくる。そのくせそれが、どういうわけか不快にならない。あまり人付き合いの得意でない僕にとって彼は数少ない友人の一人であり、理解者である。それは認めるものの、異常なまでの猫好きという彼の性癖だけはどうも理解出来ずにいるものだから、困ってしまう。

「そういうことを、話して良いのか?」
「えー、だってシオンだって隠してるわけじゃねえぜ? そりゃあ……おおっぴらにすることじゃねえけど、聞いたら話すし。チーにそこまで言わなかったのは場所が悪かったからだって。廊下で話したらさすがにまずいっしょ」

 「チー」というのは僕のあだ名だ。ケントはいつもそうやって、人に変なあだ名をつけて楽しんでいる。僕のこの由来は名字かららしいが、僕のことをこう呼ぶのなんて彼だけだ。おそらく、地球上を探してもそうだろう。

「…………。ちなみに、お前はどこまで聞いてる?」
「あの弟くんが捨て子だったって所まで」
「強烈だな」
「でもシオンは大はしゃぎだったらしいぜ? 弟が出来たって」
「そうかもしれないな」
「両親も引き取るって決めたらそりゃーもうはしゃいだらしいぜ? 子供が増えたって」
「……強烈だな」

 だよなあ、とケントは呑気にジュースを啜っている。ハンバーガーと特殊な家系の話題が同じ空間に入っているという奇妙な事実が、僕の顔を自然と硬くさせてしまう。
 特殊な家庭環境と言えば叔父に育てられているユウもそうなのだけれど、彼の場合はまったくそういう面を見せないから始末に負えない。僕の心配するべきことでは無いのだが例えば小学校時代に「おかあさんのにがおえ」などという課題が出た時ユウはどう切り抜けたろうか。何食わぬ顔で叔父の似顔絵を描いて提出したろうか。

「……どいつもこいつも…………」
「まあそう言うなってー、好きでそういう境遇になったわけじゃねえんだから」

 ごもっともだ。第一そういう環境を常と思っている彼らを哀れむことは愚かしいことであり、変に態度を変えるのもまた、愚の骨頂なのだ。あいつらは少なくとも見ている限り、現状のままで幸せなのだから。

「チーは難しく考えすぎだって」
「お前が軽々しく考えすぎているだけだ」

 そう? とケントは首を傾げた。

――――――

 翌朝、桜が舞い散る通学路を僕は歩いていた。今日も良く晴れている、絶好のお花見日和だろう。長い冬の鬱屈を全て晴らすかのように、桜は花盛りを迎えていた。花見なんてどれくらいしていないだろう。しかしながらまあ、こうして通学がてら見るだけでも充分見ごたえはあるものだ。

「アルフだ!」

 ユウの声がする。てこてこと走ってきたかと思うと僕に歩調を合わせてきて、にっと笑う。彼もまた、友人と定義してなんら差し支えはなさそうだ。

「ラースはどうした?」
「んー、今日は遭遇できなかったー」

 ユウの通学路は駅を通るため、電車通学者であり重度の方向音痴であるラースを連れてくる役目も必然的に担っていた。ただし担っているとは言えそれは、ユウが運良くラースを駅前で見つけられた時のみという、非常にムラのあるものではあったのだけれど。

「よーっす」

 ぽん、と肩に手を置かれる感触。いつの間にかシオンが僕のすぐ横を歩いていて、さらにその隣にはリオも歩いていた。

「シオンめずらしー! いっつもぎりぎりじゃん!」
「お前が言うなよなあユウ」
「俺はたまたまそうなる時があるだけだって!」
「お前のたまたまは週三回もあんのかよ」

 シオンの容赦無い突っ込みに、ユウは「むー」と唸った。しかしながらユウの言葉ではないが、確かにシオンが僕と似たような登校時間になるとは珍しい話だ。遅刻こそしないものの大抵彼は時間ぎりぎりにならないと着席しないというのに。

「や、リオに起こしてもらった」
「シオンは布団を剥がさないと起きないから」

 そんなこったろうとは思ったが案の定それはちょっと駄目な兄貴だ。

「中学校からそうだったよなー」
「違う、もっと前から」

 訂正、かなり駄目な兄貴だ。
 とまあこんな感じでぐだぐだ会話をしていたら、あっという間に昇降口へ到着した。靴を履き替えて廊下へ出るとシオンは不意に、僕らとは反対側へ歩いていこうとするリオを引き止めた。

「タイ、曲がってる」
「え」
「母さんも粗忽もんだからなー、いっつも結び方間違えるんだよなー」
「…………」
「今度から父さんに聞いたほうがいいって。……まあ朝は俺に似て低血圧だから止めとけな」

 きゅ、と存外に慣れた手つきで結び直すと、よし完璧と言わんばかりにシオンはにっこりと笑う。まあ、彼の口から出たのは「完璧」ではなくて「俺の弟は今日もイケメンだな」などというブラコン極まりない台詞であり、ふざけんなバカ兄貴、と照れ隠しなのか本音なのか分からない台詞をリオがぶちまけてさっさと歩いていってしまったという話もあるのだが、これについては詳しく話そうとするとシオンが本気で凹んで面倒なことになるので割愛する。
 やれやれ、今年も面倒くさそうだ。


 ――おわっとけ。

――――――


てなわけで、パラレル始めました。冷やし中華のノリで。
まあまったりやってきます。


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