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がくえんぱられる。
川遊びしようぜ!

 よく晴れた八月の真っ盛り、蝉が盛大に鳴き、太陽が容赦なく地上を照らしつけている、ありふれた夏真っ盛りのある夏休み中。
 学校に川が出来た。

――――――

「ルネー! おーい!」
「ちょっとうるさい!」

 すぐ隣の家、ルネの部屋に目がけてシオンは声を投げかける。ややあって勢いよく窓を開けたルネはキャミソール一枚にホットパンツという少々刺激的な格好をしていた。リオが見たらきっと卒倒するだろう。余談だがリオは一階で昼食の準備をしている。

「さっき補習受けてるカイルからメール来たんだけどよ!」
「だから何ってば、ちょっとうるさいから静かに喋ってよ!」
「学校に川が出来たってー! 俺ちょっと今ユウに連絡する!」
「……えええええっ!?」

――――――

「とーさーん!」
「ん? 随分慌ててるけど……どうかした? ユウ」
「学校に川! 川!」
「……え?」

――――――

 その頃二年生は補習を受け、三年生は当然受験生なものだから、夏期講習を受けていた。ケインは気だるそうにペン回しをし、クラス混合になったものだからたまたま隣になったリュウをからかおうとして、地響きの音にふと外を見た。聞こえたのは当然自分だけではなかったらしく、特別授業を受け持っているロアウィス先生や他の生徒たちも怪訝そうに外を見やる。
 そんな時だ、校庭が一気に川へ変貌したのは。

――――――

「だってーえ、何かー、暑かったしー」
「暑かったからって校庭を川にするなんて話は聞いたことありませんよ? アウルス」
「お前らに相談したら絶対駄目って言うじゃん?」
「当たり前です」
「だからつい」

 ごすん。

 つい、を言い終わるや否やフロウがアウルスの脳天に笑顔で辞書を叩き込む。こういう時の先生には関わらない方が賢明だとロアウィス先生がありがたいアドバイスをくれたのでそっとしておくことにした。
 さて。

「よーっし! せっかくだから遊んじゃおうぜー!」
「どうしてそうなんだよバカ会長がー!」
「え、だって川あるし」
「つうかその水鉄砲どっから取って来た!」
「帰りに虎牙っちと遊ぼうと思って持参ー。俺って用意周到だろ?」

 やばい日本語が通じない。この頭痛はきっと太陽のせいではないとリュウは己に言い聞かせる。

 ぴしゅん。

「ひっとー!」
「ってめええええええぶっ殺す!!!」
「はははー走ったら転ぶぞーリュウ!」

 ばしゃばしゃと盛大に水をかき回してリュウはケインを追いかけるものの駄目押しのように水鉄砲を顔面に直撃させられ転倒した。

「何しやがる!」
「涼しくなっていいんじゃねえ?」
「よくねえ! 俺今日ジャージ持って来てねえんだよ!」
「じゃあ俺のを貸してやろう」
「何で偉そうなんだよ!」

 確かに涼しいことは涼しいが、濡れた制服が肌に張り付くのが気持ち悪い。と、誰かにタオルを差し出された。

「リュウ様、どうぞ」
「おう、怜……って、何でお前が?」
「生徒会長に連絡を頂いたので」
「お前何で怜のメアド知ってんだよ!」
「生徒会なんだから当然☆」
「ぐぐぐ……」

 至極真っ当なケインの反論にリュウは口を閉ざした。怜は大量のタオルに加えリュウの着替えも持ってきたらしく、川岸にはぱんぱんの鞄が置かれていた。これは後で何か礼をしてやらねばなるまい。そう考えながらタオルで髪を拭く。
 気がついたら他の生徒も思い思いに川遊びを堪能しており、川岸でヤンキー座りをしていたロアウィスが溜め息をついていた。

「こりゃ止めるの無理だ」
「えー……」
「多分話は広まってんだろうし、近辺の奴らはこぞって来るだろうよ。……ま、こうなっちまったもんはしょうがねえから、俺は事故がねえよう見張ってる」

 なるほど確かに続々と生徒の数が増えている。ふと見慣れた顔を複数発見し、リュウは軽く手を振る。

「ふくかいちょーさんだ!」
「えーっとお前は……ユウ? だっけ?」
「はい。俺また誰かにだまされたんだろうなーって思ってたんですけど、マジだったんですねー」
「……認めたくねえがマジだ」
「はは……それじゃ俺あっちで遊んできます!」
「遊ぶの前提かよ」

 くす、と怜が笑う。お前は遊ばないのか? と問うと、ひとりで遊ぶようなものでもないですし、と悲しい返答があった。

「りゅーうー! あそぼーぜー!」
「てめえは小学生か!!」

 ったく、と悪態をつくと、ふと怜が立ち上がった。

「あ、怜」
「リオ」

 先日の体育祭で不本意ながらすっかり有名人になってしまったフェーデ兄弟と、サマードレスを纏った銀髪の少女。ごく親しげな様子を見るとどうやら幼馴染かその類らしい。

「りー、この子? お前の友達。そういや一回会ってるな俺」
「……ん」
「へー、よろしくしてやってくれな、こいつこんなんだけどいい奴だから」
「はあ……」
「うるさいよバカ兄貴」
「怜ちゃんって言うの? あたしルネ、よろしくね」
「は、はい……」

 戸惑ってはいるものの、仲良くなれそうだ。怜の表情がそれを物語っている。しかしながら、一緒に遊ぼう、とルネに問い掛けられて途端に怜は困惑した表情を浮かべた。

「怜、行って来い」
「しかし」
「俺はあのバカを止めるのに手一杯だからよ」

 よし決まり! とフェーデ兄が笑い、ルネが怜の手を引いていく。下流のほうで大人しく遊ぶ算段なのだろう。

「着替え一枚は持って来てるけど、あんまりはしゃがないでよ?」
「分かった分かった」
「リオも苦労してるね……」
「これくらいしないと気が気じゃないから」
「…………リオ?」
「ん?」
「兄弟の仲がいいのは、とてもいいこと、だから」

 怜のそんな声を背に、リュウは水鉄砲を振り回しているケインと、いつの間にか混ざっていた虎牙を止めにかかった。

「お前らいい加減にし……ぶっ!」
「今のリュウ見た!? 虎牙っち!」
「かはははは! ばっちぐーだぜケイン!」
「だー! 水鉄砲いい加減にしろー!!」

――――――

 結局日が傾くまでほぼ全校生徒が水遊びに興じ、次の日には遅れた分の補習や講習を行なったのは言うまでもない。
 そして川の構造は、最後まで不明だった。



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あきゅろす。
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