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がくえんぱられる。
最終種目 騎馬戦 ※の予定でしたが学園長が勝手にプログラムを書き換えてしまいました。ご了承願います(管理人)

 次は騎馬戦だ! アレって結構危ないから禁止してる学校もあるんだけど、この学校はもちろんそんなことはない、みたい。それ自慢になるのかなあ?

『の予定だったけど俺様の都合で変更だ!』

 シルハが口を開く前に、いきなり学園長がそんなことを言い出した。え? 変更って何? 嫌な予感しかしないんだけど。アルフが「え?」とプログラムを読み返してるけどもちろん答えなんて書いてなかった。
 学園長の指示で全員校庭に整列させられて、ざわざわと晴天に喧騒が響く。

『よーし今からお前らには鉢巻き分捕りゲームをしてもらうぞ! ルールは簡単、どんな手を使ってでもいいから敵チームの鉢巻きを奪い取れ!もちろん奪い返すのも可だが、ただしケガはすんなよ! 一番多く取ったチームが優勝だ!』

 全員一様にぽかんとして。

 ――二分後、校庭は戦場と化したんだ。

――――――

 ラースみたいにやる気がない生徒は逃げ回る専門だったけど、カイルみたいな猪突猛進(リオがこう言うんだって教えてくれたんだ!)タイプは思いっきり突っ込むんだよねー。
 俺はといえば、えっと、逃げるので精一杯。だって上級生とか目の色変えてすっげえ怖い!! 力じゃ勝てるわけないから俺は必死で逃げた。頭では鉢巻きがのんきにゆらゆら揺れてた。
 その時、あの書記の女の子が他のチームに囲まれてた。あ! ひどい! 力ずくで奪う気なんだよなあれ!
 敵チームってこともあって(ぶっちゃけ怖かったけど)俺がそっちに向かおうとすると。

「隙だらけですよ」

 って呟いて、一人に目潰しをして、背後に回ってた一人に素早く足払いをして、一人の股間を蹴って悶絶させて、もがく三人の鉢巻きを堂々と奪い取って走ってった。

「…………すげえ……」

 ひょっとしたら俺も巻き込まれてたのかも。でも急所攻撃は本当痛そうだよー怖いよこの種目ー。
 って言ってたら俺は髪を引っ張られて地面に引き倒された。

「なんかちっちぇのが釣れたな。まあいいだろ」

 副会長ー! やばいそれは逃げられないよごめんなさい!!
 背中がじんじんと痛むのも忘れて俺は精一杯抵抗したけど、結局鉢巻きは取られてしまった。それ以上は用もない、って言って副会長は俺を起こして走っていこうとする。
 けれど、そんな副会長の顔面に誰かが飛び蹴りを食らわせた。

「てめえ何しやがるー!!」
「はっはっは! 油断してんのが悪いんだっつーのリュウ!」

 うわー生徒会長!! どうしようなんかラスボスが出てきたこの感じ。

「名誉ある副会長さんが暴力はいーけないんだー」
「お前今の台詞そっくりそのまま返してやる!!」
「俺は同級生に向かってだからいいんだもーん。お前は卑怯だよ下級生相手にマジになっちゃってさーあ」

 理屈の通らない理屈をこねてくすくすと笑っている生徒会長はジャージのポケットに入りきらないほどの鉢巻きを持ってた。出所を問いただされた彼はこともなげに「女の子たちがくれた☆」と言ってのける始末で……うーん、モテるって凄い。

「それにその子はラーちゃんとリっちゃんのお友達だからなあ、だからつまりそいつらの友達は俺の友達これおっけー?」
「オッケーなわけあるか! 大体誰だそいつらは!」
「ラーちゃんはともかくお前怜ちゃんの友達の名前も知らねえの? そりゃあちょっとスマートじゃねえわ」
「……っ!? 怜の友達?」
「ていうかさーあ、その子おんなじチームじゃん。何仲間割れしてんのはっずかしー」
「何っ!?」

 ……ぶっちゃけ俺も今ごろ気付いた。副会長と俺、同じB組だった……。副会長はすっごく慌てた様子で「悪かった」と俺に頭を下げて、鉢巻きを返してくれた。
 そしてその隙に背後に忍び寄った生徒会長が副会長の鉢巻きを奪い取る。

「もーらい☆」
「てめえええええ今日こそぶっ殺す!!!」
「ほーら捕まえてごらんなさーい☆」
「ざけんなああああ!!」

 ……楽しそうだなあ、生徒会って。やりたくないけど。
 さて結びなおそうと鉢巻きを頭に当てた瞬間、するっとそれが俺の手から抜けて行った。

「っ!?」

 俺が立ち上がって振り返ると、紫色の鉢巻きを手中に収めたリオが踵を返すところだった。

「待ってー!!」
「待てと言われて待つバカはいません!」

 いや、それはそうかもしんないけどー! せっかく返してもらったのにー!
 とかってよくわかんないやりとりしてたらいきなりリオが視界から消えた。見ると、ルネがリオにタックルをかましたみたいで、銀髪が黒髪を押しつぶす感じで二人が倒れていた。

「ごめんリオ! 転んじゃった!」
「…………はあ」

 転んじゃったとか明らかにそういうレベルじゃなかったけど。そして何気なくルネが鉢巻き奪ってってるけど。俺の鉢巻きとリオの鉢巻きを取ったルネはそれをポケットに押し込む。

「っ、ちょっとルネ!」
「俺の鉢巻きー!」
「あ、ユウのだったの? でもA組結構危ないの。女の子たちがみんな鉢巻き取られちゃって」
「……生徒会長さんに?」
「そうそう。だからごめんね、二人とも」

 うーん……そんな目されたらなあ…………困るなあ。リオなんかとっくに取り返す気無くしてるみたいだし。

「なんかもー……どーでもいいかも……」
「僕もです……」

 はあ、と呟いた俺たちに、学園長が放送で呼びかけてきた。

『こらーそこのヘタレ若人ー、ちょっと俺様の所に来いや』

 へ。どういうこと。
 顔を見合わせながら俺とリオは本部へ行った。鉢巻きを取られた俺たちは、誰にも見向きされなかったんだ。
 にやにやとしている学園長の前に立つと、一杯の水、っぽいものを渡された。

「スペシャルドリンクだ、これを飲むとだな、元気百倍一杯百メートルは固いぜ」
「パクりもほどほどにしてくださいませね」
「……どういう意図があるんですか」
「べっつにー? 好きな女の子に鉢巻き譲っちゃうお前に言われたくねえわ」
「っ! 誰が喋ったんですかそんなこと!」
「俺様は何でも知ってるんだぜへへへ」

 喚くリオに対して学園長はあくまでへらへらとした態度で応じる。
 やだもうこの人帰りたい。目だけでシルハに訴えると、にっこりとアルカイックスマイルを浮かべられただけだった。同情すらされてないよ俺。
 そうこうしている間に、リオがドリンクを飲み干してた。

「どうだどうだ? 何かいい気分になんねえか?」

 味に関してはノータッチだったらしい、リオは口元を押さえてしばらく俯いてたけど、不意にコップを置いて口元を緩めた。え?

「…………くすくすくす」
「ん?」
「リオ?」

 明らかに様子がおかしい。学園長もそれに気付いたみたいで、小首を傾げた。

「やばい何これあははははは世界が歪んでるんだけど! 凄いみんな五人ずついる!」
「えー!」
「おいユウ。どういうことだ?」
「俺に聞かないでー!」

 怪訝そうな顔をする学園長と、我関せずを決め込んだシルハと、焦りだす教師陣と、俺。ぐるっと見渡してリオが今まで見せたこともないような笑顔を浮かべてあははははと陽気に笑う。

「貴方、あれに何を入れました?」

 それとなくフェルス先生が学園長に近寄ってくる。やばい、本気で怒ってる。怖い、いまだかつてないくらい怖い。もう逃げたい。

「えっとお、滋養強壮のうんちゃらかんちゃらとかあ、酒とかあ?」
「貴方未成年に何てもの飲ませるんですか!」
「でも酒ったってほんの三滴くらい……」
「一滴でも大問題ですよ!」

 大体貴方はいつもそうやって、と先生が説教を始めた。こうなると誰ももう敵わないんだよなあ。

「じゃあ僕行きますねーわーすごーいぐにゃぐにゃーへんてこー」
「リオ待ってー!!」

 駄目だってああいう人放置したら!
 でも悲しいかなリオは俺より足が速い。手近にいた敵チームの人間に暴行を加えて鉢巻きを奪い取って、また誰かに手を出して鉢巻きを、敵味方分別無く壊れた人形のように暴れ回るリオに俺は追いつけない。

「ま、待ってー!!」
「べーだ」

 あまつさえ俺にあっかんべーをする始末。普段とのギャップにさすがに若干引いた。引いちゃいけないんだろうけど引いた。

「こらそこのバカ弟!」

 っていう声が人込みの中から聞こえて、血相を変えたシオンが飛び出してきた。その姿を認めたリオはきゅっと足を止める。そうしてにっこりと笑顔で手を振る様を見て、その場にいた全員の時間が一瞬止まった、気がした。

「あーシオンにぃだやっほー」
「じゃねえ! お前何やってんだ!」
「ほらほら鉢巻きいっぱいーえへへへへへへへ」
「味方のも取ってんだろお前は! 返してこい!」
「やだー。……っていうか何なの一人でもウザいのに五人いるとか何様?」
「はあ? お前視力いいはずだろ何でそんな……まさか?」
「ちょっと四人くらい消えて邪魔だからくすくすくすくす」
「お前それ色々な意味で傷つくだろ! いいからちょっと来い!」

 えーそれはやだ、と唇を尖らせてリオはまた人込みの中に飛び込んでいった。生徒間では「頭ぶっ飛んだやばい奴が暴れてる」という情報が飛び交っているみたいで、リオの顔を見た誰もが、上級生でさえも逃げ出した。慌ててシオンが追いかけるのを、俺は黙って見ているしかなかった。リアル鬼ごっこって映画、昔あったような気がするよ? 見たこと無いけど。

「……ようヒグチ」
「ケント! すっげーボコられてるけど何!?」
「あの黒猫ちゃんにやられたんだぜ……あれはいい拳だった……いてて全身ガチで痛いんだが」
「ほ、本部行った方いいよ! 今すぐ!」
「だよなあ……」

 で、ケントはふらふらと本部へ歩き出した。
 歩き出して七歩目で暴走特急のリオに激突された。

「ケントー!!!」
「惜しい奴を亡くしたな」
「ラース! 勝手に殺しちゃ駄目だってば!」

 いつの間に戻ってきたんだろう。というか何でラースほとんど無傷なんだろうすげえ。って思ってたら「どらあ捕まえた!」っていう声とぎゃんぎゃん喚く声がした。何か若干放送禁止用語っぽいもの叫んでたけど、俺は聞かないことにした。
 背中から馬乗りになられてしばらく手足をばたつかせていたリオだけど、不意に黙ったかと思ったらかくんと電池が切れたみたいに動かなくなった。

「あー……やっと止まった」
「し、シオン大丈夫っ!?」
「お前こそ大丈夫かよユウ? 俺は平気だけど」

 まあケガはしてないし、学園長のドリンクも飲んでないからリオみたいに暴走することもしてない。身体的異常は一応無いつもりだった。せいぜい肘を擦りむいたくらい。ケントは先生たちに運ばれて本部で手当てを受けるみたい。……病院行くのかなあ?

「シオン、一体何なの?」
「えっとな、お前ら本部で何か貰っただろ? それにアルコール入ってなかったか?」
「んー……確か三滴くらい入れたって……まさか?」
「そのまさか。以前父さんがイタズラで飲ませたら家中大騒ぎになってな。あれ以来、お前は一生酒飲むなって言ってたんだけどなあ……」


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