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がくえんぱられる。
お昼休み

 ちょうどここでお昼の時間。いったん教室に戻った俺たちは先生に結果を色々と報告して(ちなみに今はC組がリードしてる)めいめい好き勝手に弁当を広げ始めた。

「よーっす」
「やっほー」

 あ、ルネとユリィだ。俺とカイルとシオンは適当に机を指し示してがこがこと動かす。他の人たちも適当に他のクラスに散らばってるみたいだ。

「あれ? リオ来てないの?」
「もうすぐ来んだろ。何か用だったか?」
「だってさっき障害物で転んだでしょ? 手当てしなきゃ」

 そういやルネって保健委員だっけか。多分手作りなんだろうな、弁当箱を広げてちらちらと教室の出入口付近を窺ってる。カイルはカイルで、俺は俺で弁当を広げて早くも食べてたんだけど、シオンとルネが手をつけてない。

「シオンこそ、食べないの?」
「りーが来るの待つ」
「先に食べてたからってふてくされないでしょ? 過保護なんだから」
「お前こそ」
「あれ、そいやケントは?」
「あー、何かさっき変なこと叫びながら出てったけど、止めた方が良かったか?」

 と言いながら何かちょっと不恰好なサンドイッチをぱくつくユリィの一言に俺とカイルは顔を見合わせる。はっきり言って、止めない方が正解だと俺は思うんだけど、多分カイルもおんなじことを思ってるんだろうなあ。

「呼んだ?」
「うわあびっくりしたあ!!」

 いやほんとびっくりしたんだって! いきなり隣からひょっこり出てきたら普通びっくりするよね!? って……何でリオも一緒にいるの? というか何で担がれてんだろ?

「いっやあ、にゃんこちゃんに引っかかれて傷心だったところを見つかってさあ、これはこれで黒猫みたいにかわいいから連れてきちゃった☆」
「こらケント、俺の弟を返せ!」
「だってにゃんこちゃんの声帯模写やってくれてさあ、俺もうハッピー」
「りーは猫じゃねー! とっとと返せ!」

 分かったよしょうがねえなあ、といった様子でケントはリオをルネの隣へ降ろした。リオの弁当箱を目の前にちょんと置いて、ケントも腰を降ろす。

「そうだリオ! 傷見せて!」
「え、……せめて食べてから……」
「駄目」

 却下されてる! リオってあんまり人の言うこと素直に受け止めないんだけど、今回だけは事情が違うみたい。渋々足の傷をルネに見せてた。

「あ、でも擦り傷だけだね。血は出てないみたい」

 良かった、と笑うルネの顔は、何て言うか華みたいだって以前ユリィが言ってたっけ。けど、俺たちへの笑顔とリオへの笑顔が微妙に違う気がするんだよなあ……やっぱり俺の気のせいかな?

「なあなあ」

 リオがようやく弁当を広げ始めたところで、ユリィがおもむろに口を開いた。

「どしたの?」
「みんなって弁当作ってくる派?」

 ちなみにオレは今朝作ってきた、と自慢げに言うユリィ。……この場合俺は何て言ったらいいのかなあ? ユリィ以外のみんなは俺の家族構成知ってるからいいけど……。
 ぶっちゃけるとこれは父さんが作った弁当。しかも「父さん」って俺は言ってるけど「義父」なんだ。本当の両親は俺が小さい頃に死んじゃったんだって。俺を引き取ってくれた人は、父方の叔父なんだってさ。でも俺のことかわいがってくれてるから不満を言ったこともないし、今の生活で不自由はしてないから全然構わないんだ、けど。

「あたしは自分で作るよ」
「だよな! すげー美味そう!!」
「俺は買うー」
「カイルもたまには自分で作ってみりゃ楽しいぞ?」
「うるせー、そんなことやったら兄貴らのいいネタにされちまう」
「ははははは! シオンは?」
「母さんとりーの共同」
「でも今日は母さんが張り切って全部自分で作ってた」
「……道理で妙に豪華なわけだ」
「お前らの親は張り切るんだな! ユウは?」
「えっと……と、父さんが……」
「あーそれっぽいな! 男の弁当って感じだ! ケントのも!」
「俺は自分で作ってるし。弟とか妹とかいるとどうしてもなー」

 たは、何とか話はずれてった。けどユリィ、お嬢様なのにサンドイッチ作れるんだ……なんか意外。

「あたしどうしても卵焼き上手に出来ないの」

 自作の卵焼きを箸でつつきながらルネがぽつんと呟いた。うーん、見た目としては結構おいしそうだけどなあ。とか俺が思ってると意外にも口を開いたのはリオだった。

「……そうは見えないけど」
「じゃあ味見して」
「え」

 はい、とルネが箸に卵焼きを挟んでリオへ差し出す。
 え。これは、もしかして。俗に言う?
 俺の隣ではケントがシオンに耳打ちをしてた。カイルとユリィも目を丸くしてる。

「おいシオン、どーいうことだこれは?」
「俺に聞くなよ。けどなあ……」
「けど?」
「どえらい奥手のあいつが素直になるかどうか……わっかんねー」
「え? りーくんってもしかしてアレ? らいく? らぶ?」
「らぶ」
「うわああああああ……」

 とかなんとか話が進んでるのも全く気にしてない様子でルネは「あーん」と笑顔でリオに卵焼きを勧める。
 リオがルネにらぶ。ってことはこれはもしかしてもしかすると。とか思いながらリオの方を見ると……うわあ、顔が真っ赤だ。

「え、あ、えっと……」
「リオ? 大丈夫だよ変なのは入れてないから。あ、でもリオにはちょっと甘いかも、砂糖入れすぎちゃったかもしれないから」

 カイルの横ではユリィが「そういう問題じゃねえだろ……」と笑いを噛み殺しながら零してる。カイルも、悟っちゃったんだろうなあ、ぽかんってしてる。

「……リオ、やっぱりあたしが作ったのは嫌?」
「え、ち、違っ、違うから!!」
「ほんとう?」

 とかって上目遣いとか。それは計算とかじゃなくて、天然、だよね?
 俺今のところ好きな子とか居ないけど、もしリオみたいな立場になっちゃったらびっくりするどころじゃないよなあ……心臓に悪いんだろうなあ……。
 改めて差し出された卵焼き。ていうかここ教室だってこと二人とも忘れてるんじゃないかなーってくらい俺たち放置。ま、しょーがないか。
 顔を真っ赤にしたまま、リオが口を開こうとした、そのまさに。

「りゅーうーーーー!!」
「うぎゃあああ来るなああああああ!!」
「どうしてよリュウ! 私達の愛を受け止められないのっ!?」
「そんなに食えるかバカ兄貴バカ姉貴! 帰れ帰れ!」

 ぎゃんぎゃんと大嵐が俺たちの教室前を通り過ぎていった。

「………………何今の」
「さあ」
「まあいっか。はいリオ」

 いやだから、その切り替えの早さは何なのルネっ!? 今の副会長だったけど大丈夫なのかなあ。
 にこにこと笑うルネと、照れくさそうなリオ。平和といえば平和な光景なんだけど、どう見たって片思いだよねこれ?
 それからしばらくの間を置いて、小鳥が餌を貰う仕草にも似たような感じでリオが口を開く。ルネが慣れた様子で卵焼きを放り込んで満足げな表情をしていた。

「どう? リオ? 甘い?」

 しばらくもごもごと咀嚼していたリオが呟いたのは「……すごい甘い」という途切れ途切れの一言。

「じゃ、じゃあお茶買ってくるね待ってて!!」

 がこん、と椅子から立ち上がってルネは教室を走って出て行ってしまう。それを見送ったリオはべしゃんと机に突っ伏した。

『…………』

 全員沈黙。恥ずかしいやら何やらで死にそうになってるリオに掛ける言葉なんて俺には思いつかない。あーあもう、と仕方なさそうにリオの髪をわしゃわしゃと乱暴に撫でたのはシオンの手だった。

「おい、生きてるか?」
「…………ん」
「そんなに甘かったのか?」
「……甘いよ、すっごく、ルネが」
「とりあえず戻ってくるまでに顔色戻せそうか? お前首まで真っ赤だぞ」
「無理……死にそう……」
「重体だな。湿布貰ってくるか?」
「そういう問題じゃない……ああもう」

 ほんとだ、首まで真っ赤だ……。恋心を知られて、しかも公衆の面前で「あーん」をやらされて、普通は恥ずかしいよなあ……ましてリオは結構シャイな方だし……。

「へー! お前ルネが好きなのか! 全然気がつかなかった!」

 と爆弾発言ぶちかましたのはやっぱりユリィ。戻り始めていた顔色がまた朱に染まって、シオンに「勘弁してやってくれよ」と苦笑されていた。

「なあなあいつから? いつから?」
「…………なにこの羞恥プレイ……」

 ユリィやカイルからの質問責めにリオが涙目になるのに、そう時間はかからなかった。


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