がくえんぱられる。
第二種目 障害が多すぎる障害物競走
「……シオン、弟が心配なのは分かるが後にしろ」
さり気なく基地を抜け出そうとしてアルフに見咎められたシオンは、しょんぼりと席に戻った。ちら、とシオンの視線の先を追うと、茫洋とした表情で顔に湿布やらばんそうこうやら貼られたリオの姿があった。
「お前次だろ、ほら準備しろ」
「うー……分かったよ」
渋々、と言った感じでシオンはアルフの指示に従った。あ、ケントもいるんだ。……C組では何かざわついてるけど大丈夫かなあ?
『C組の選手は整列してくださいませ』
シルハのアナウンスに、C組一同が唸った。
「わかったー、めるがでるー!」
『えええええっ!?』
と、いきなり言い出したのは、どう見ても小さい子にしか見えないんだけど一応俺と同い年のメル・クラリス。それは止めておけ死ぬぞ、という声があちらこちらから聞こえてきて、やがて手を上げたのはリオだった。
「この人が出るくらいなら僕が出ます」
「えー? りおちゃんさっきけがしたのー! だからだめなのー!」
「そうだぜリオちゃんよお、学園長の障害物ナメないほうがいいぜ?」
「……虎牙先輩にしてもメル先輩にしても何でそんな呼び方するんですか……」
「まあまあ。よしそれなら俺が出るぜ!」
「お前は駄目に決まってんだろケイン」
「なーんでよ虎牙っち!」
「万一ケガでもしてみろ、女子生徒の顰蹙が全部俺にくるから勘弁してくれ」
『整列してくださいませ』
うわあ……シルハ、結構苛立ってるよおおおお。
何があったか知らないけど早く出ないかな……。
「……障害物は身体が小さい方が有利でしょう? だから僕が出ます」
「そうとも限らないぜ? じゃあリオちゃんと俺で出るか?」
うわあ、議長だあ。しかし凄い派手な髪色だなあ……地毛かな?
結局虎牙先輩とリオが出ることにしたみたいなんだけど、シオンが、当たり前だけど凄くびっくりしてた。
「りー! お前そんなケガで!!」
「別にたいしたケガじゃないし。それより自分の心配したら?」
「ってかお前さっきも出たくせに何でまた出るんだよ!」
「ついでに言えば午後の借り物競走にも出るぜ? この子」
「出すぎだろ!」
「うるさいバカ兄貴。選手が急病でちょっと足りなくなったんだ、しょうがないと思わないわけ?」
何この会話?
ラースはもう興味がなくなったみたいで欠伸なんかしちゃってる。学園長は……うわあ、凄く楽しそうな笑顔だなあ……。
『よしよし選手は決まったみたいだな』
『それでは整列。用意……スタート!』
空砲の音と共に全員が走り出した。
三歩目でケントが落とし穴にはまった。
「ぎゃああああ!」
十歩目で網くぐりがあった。やっぱりこういうのは小さいのが有利みたいで、一年生なんかは易々と潜り抜けていく。ようやく落とし穴から抜け出したケントも網に挑戦してるけど、何かこんがらがって大変なことになってる。
網くぐりの後は平均台。うわ! 虎牙先輩凄い! 走り抜けたよ今!!
平均台の真下は、また落とし穴だった。
「ひっでえよこれは!」
学園長はけたけたと楽しそうに笑ってる。俺、参加しなくて良かったって正直思ってる。参加してるみんなには悪いんだけどさ……。
虎牙先輩のあとに続いたリオは落とし穴を避けるように遠くへ着地して走る。
その五歩目でなんかのスイッチを踏んだリオの足元から水柱が立った。
「うわっ!」
頭からまともに水を被ったリオはそれでも走るものの、動揺したのか足をもつれさせて転んだ。砂と水で大変なことになっているリオに手を貸したのはいつの間にか追いついたシオン。リオはきょとんと目を丸くしていたけど、手を借りて立ち上がった。
『あらまあ、敵に塩を送るとはこのことですわね!』
「りーは敵じゃねー!!」
『ははははは! お前のブラコンぶりは学校中に知られてっからなあ!』
言ってろ! とシオンは声を荒げて走り出す。
するとゴール前に何か箱が置いてあった。
『それは特製くじ引きだ! それに書いてある芸能人の物真似をして俺様を笑わせられたらゴールだ!』
「なんだそれー!!」
よろよろとゴール付近まで来た選手も、明らかに顔をしかめていた。
「分からないけど、僕は引くよ」
ごそ、と躊躇いもなくリオはくじを引いた。続いて他の選手も我先にと箱へ手を突っ込む。
「………………」
『おうおうどうしたあ? 誰からやってもいいぞ?』
「よっしゃあ俺から行くぜ学園長!」
と、名乗りを上げたのは虎牙先輩。自信満々なんだろうなあ、凄く余裕があるみたいに見える。
シルハからマイクを借りた虎牙先輩は一度すうっと息を吸って、右手人差し指をぴっと上空につき立てた。そして張りのある声で、言ってのけた。
『トゥーッス!!』
あれか! 今をときめくお笑い芸人の物真似か!
『ぶはははは! 合格だゴールしろ!』
どうでもいいけど学園長って結構笑いの沸点低いんじゃないっけか?
『次は誰だ?』
「……気は進まないけれど、いきます」
リオは渋面を浮かべていたが、マイクを左手で持ち、右手で何かの形を作ってポーズまで取った。
『キラッ☆』
と、ウインクと笑顔のオプションつき。何だっけこれ……確か、アニメのキャラクターだったような?
『お前声帯模写うめーな!! 合格だ!』
「ありがとうございます」
ととととと、とリオがゴールする。残っているのはA組とB組。
「学園長!」
『何だ? ケント』
「にゃんこちゃんの物真似は駄目ですかっ!?」
『却下だ!』
「うえー!」
当たり前だろあのバカ、とアルフが悪態をついてる。そりゃあケントの得意分野だけど……駄目に決まってるよね。シオンは何を引いたんだろ? 結構困ってるみたいだけど。
『しゃらくせえなあ、シオン、どうだ?』
「うえー……」
マイクを握ったシオンはえーうーおーと発声練習をして、左手で変な形を作ってた。
『ちょりーっす!』
『全然似てねえ! やり直し!』
「だから嫌だったんだー!」
喚いているシオンを尻目に学園長はすごく楽しそうだった。
その時C組の方から野次が飛んだ。んー、野次ってのも適切な表現じゃないよなあ、何だろ? リオに向かってなんか言ってる。
「おーいフェーデ! 兄ちゃん助けてやれよ!」
「そうだそうだ! お前さっき助けられただろー!」
『まあ、これはアリですの学園長?』
『うーん……俺が面白けりゃ良しだ!』
ゴール地点で虎牙先輩と何か話をしていたみたいだけど、この提案にはちょっと怪訝そうな顔をするリオ。
やんややんやとリオをはやし立てる声にリオがどう思ったかは分からないけど、渋々といった様子でリオはシオンが引き直したくじを奪い取った。
「じゃあこれが上手くいったらシオンがゴールしてもいいと?」
『おう、面白かったらな』
「分かりました」
俺どうしたらいいんだよ、という風なシオンを視界から追い払ってリオはマイクを握る。
そしてリオは、世界的に有名なネズミの物真似をやってのけた。
『やあ僕ミッ●ー♪』
『ぶははははは!!! お前声優になれよ!! 合格!!』
遠慮しておきます、と言い置いてリオはゴール地点に戻る。物真似で学園長と一緒に笑い転げていたシオンを引きずって。
C組陣地も色々な意味で大変なことになってるよ? リオ……。
「すげえなあいつ!」
「そっくりだったなネズミ!」
「ってか声帯模写うめー!」
結局時間切れでゴール出来なかった選手を置いてリオたちは陣地に戻る。
「これってゴールって言うのか……?」
と疑問符を口にしたシオンはさておき、C組ではリオを囲んで色々と質問責めをしているようだった。確かにまあ凄いな、とアルフが零している。
「りーは昔っから物真似が上手いんだよなあ……」
「そうなの?」
意外すぎる特技だなー……今度俺も何か頼んでみよ。
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