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がくえんぱられる。
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 新聞部のコラムのひとつに「突撃! 隣のクラスメート!」というパクりもいいところ極まりないものがある。例年それは一年生の担当で、今年も「生きのいい」一年が数名入部してきたこともあり部員一同さっそく新年度の発刊に取り組んだ。
 ヒール・テトは新入部員の中ですこぶる付きの元気少女だ。しかも話し上手で文章力も結構あるということで、いわゆる期待のホープ、というやつだ。
 そんなわけで、ヒールは先輩部員の期待を背負ってインタビューへ向かった。

――――――

「突撃! 隣のクラスメート!!!」

 ヒールが大きなしゃもじ(らしきもの)を抱えて飛び込んだのは、生徒会室だった。当然ながらアポは取っていない。役員たちはぽかんと目を見開いていた。そういうコラムがあるという存在を知っているはずであろう三年生でさえ、も。
 約一名を覗いて。

「……へーえ? 誰を取材しに来たのかなあ?」

 よく通る、テノール。間違えようもないその声は生徒会長であるケインのもの。窓を背にしているため逆行なのが少々惜しいが、美しい金髪ははっきりと確認できた。

「それは貴方です! 生徒会長!」
「ひゅう、お目が高い」

 軽く口笛を吹きながら、ケインはにっこりと笑う。その笑みひとつで女子生徒の大半が恋に落ちるという、甘い甘いマスク。ケインは優雅な仕草で立ち上がるとするすると入口付近まで歩み寄ってきた。

「そんなわけでーえ、あとはよろしくう☆」
「っておい! てめえ無しで何を進行しろっつうんだ!」
「それはリュウが適当に決めていいぜえ? 文化祭でも生徒総会のことでも何でもいいよお」

 言いながらケインは慣れた仕草でヒールの手を取り、狭苦しい生徒会室から連れ去ってしまった。

――――――

 予想以上にとんとん拍子で話は進んだものの、まさか新聞部の部室にまで来られるとは思わなかった。

「あー大丈夫大丈夫、煙草とかエロ本とかやばいのあっても俺気にしねえから」

 と言いながら空いている席に我が物顔で腰掛けるケイン。突然の生徒会長の乱入に若干表情を強張らせていた部員一同だったが、ケインの笑顔に気を許し始めていた。

「それで? 何インタビューしてくれんのお?」

 そうだ、見惚れていて忘れるところだった! ヒールは慌ててメモ用紙を取り出してケインへマイク(録音用)を向けた。

「それではまず、ケインさんが生徒会長に立候補した理由は何でしょう?」
「んー、やってみたかったから」
「……はい?」
「やってみたかったんだあ一度。何となく二年の時にいきなり立候補したらものすげえ票集まってさーあ。ヒールちゃんだっけ? 君は一年生だから知らないかあ」

 まあ、そういう逸話があったのは知っていたけれど。ついでに言えばケインのカリスマ性についても入学式からよく知っていたけれど。しかし綺麗だなこの人、と考えているとにっこりとまた笑われる。

「何? 俺に惚れちゃった? でも俺心に決めた人がいるんだあ」

 それは聞き捨てならない。学園中の人気者が「心に決めた女」とはどんな人なのか。それを聞き出したらとんでもないネタが得られることだろう。ここは慎重に攻めて行かないと。

「そんなこと言って、学園中の女の子泣かすつもりですか? 罪な人ですね」
「え? いやあそんなつもりはねえけどお」
「美人さんなんですか?」
「へへ、そりゃあなあ」
「知り合ったのは?」
「入学式! 俺の一目惚れなんだよなあ」
「あらあら、それはさぞかしお綺麗な女性なんでしょうねえ」
「うんうん。ま、名前までは言えねえけどお」

 ここで内心肩透かしを食らった気分だった。ケインの性格上、堂々と喋ってくれそうなものなのに。ひょっとしたら、相手に迷惑がかかるのだろうか。それはそうだろう、ケインの心を奪ったとなればどんな嫉妬が彼女に襲い掛かるか分かったものではないから。
 しかしここまで聞けただけでも収穫だ。

「それでは次の質問です!」
「はいはーい」
「今まで付き合った女性の数は?」
「いねえよお?」

 え、本気で? とヒールが思う前に男子部員の一人が割り込んできた。確かケインと知り合いだとか何とか言っていたような。

「マジで言ってんのかよお前!」
「うん」
「じゃあ隣町の女子高生振ったのもマジ!?」
「あーうん、そんなこともあったなあ」
「お嬢様学校のマドンナを振ったのも?」
「それ多分俺じゃねえよお。金髪の別人だろお?」
「じゃあお前高三だってのにまだ童てげふん!」

 放送禁止用語を放たれる前にヒールは部員の鳩尾に肘を入れる。

「セクハラです」
「げふげふげふ」

 そんな発言にも構わずケインはけたけたと笑っている。自分のことなんだからもっと怒ってもよさそうなものだけれど、至極楽しそうだった。

――――――

『皆大好き生徒会長の秘密!』

 翌日の新聞部の完成原稿、例の部分は概ねこんな見出しで始まった。
 写真写りも怖いくらいばっちりな生徒会長は余裕綽々の笑顔&カメラ目線で真っ先に女子生徒の目を引き、例年に無いほどの配布量になった。
 特にもやはり気になったのは「心に決めた女性」の存在らしく、ケイン本人はおろか新聞部にまで問い合わせが殺到する羽目になった。
 事態が収束するには、半年ほどの時が必要だったとか。

――おしまい

――――――

あとがき:
 学園パロといえばやっぱり新聞部は欠かせないかなあという勝手な偏見で始まった番外編です。
 今後もちょいちょい番外編は入れていく予定。新聞部に限らずね。



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