海の青と月の気持ち 〜 JOKER
高波
「あらあら、大変」
あいかわらず緊張感のないゆぅ
「砲撃手は準備して?直撃しそうな大きい波だけ砕けばいいわ。タイミングと狙いは教えてあげる」
放心していたクルー達の注目がゆぅに集まる
「嵐じゃないんだから、帆はそのままでいいから。舵は波の谷間を行くようにがんばってね。斬撃を飛ばせる子は波の山を潰してちょうだい」
次々と出されるゆぅの指示に押されるようにヨロヨロと動き出すクルー
「おい、ゆぅ」
ゆぅは肩を掴む声の主を振り仰ぐ
「キッドはアタシと一緒に指示出しね。目の前の波だけ見てちゃダメよ。あ、あと檄を飛ばすのも忘れずに」
「後ろのバカでかいのはどーすんだっ!」
「その手前だって、相当な大波よ?まずそれを越えてかなきゃいけないの。アレに惑わされて、できることもしないんじゃダメじゃない」
大声でもないのになぜか船全体に響いたゆぅの言葉に、全員の顔つきが変わる
「それに、どんな困難があっても、進める人は進めるものよ。だいたい、アレが来るまでにどう変わるかわからないでしょ?グランドラインは何が起こるか....」
「だから、ここはサウスだって言ってんだろうが」
ニヤリとしたキッドは少し乱暴にゆぅの頭をぐりぐりと撫でる
「野郎ども、やってやろうじゃねぇかっ!」
雄たけびの上がった船は、襲いかかる大波の中を進んでいった
あらかたの波は越えたが、天を突く高波は変わることなくそびえる
「ありゃぁもう、どうしようもねぇ!お前ら、全員つかまれ!後は俺の運に賭けろ!!」
そう言ってキッドはゆぅを腕に強く抱え込んだ
「え?アタシは、海、大丈夫....」
「それでも流されりゃ、はぐれちまうだろうがっ!」
「キッド....」
あの高波がいよいよ近づいてくる。キッドの腕に力が入る
アタシがはぐれてしまなわいように....
キッド....ありがとう....
ちゃんと掴まえててくれて
ゆぅはキッドの胸元に置いていた手をその背中に回して目を閉じる。力強く温かい心音に波の音が消えていく
キッド....ありがとう....
大好きよ....
............海よりも
「大丈夫。キッドくんの船は沈ませない」
その呼び方に、キッドは「え?」と腕の中のゆぅを見る。髪が真っ白に変わり、顔を上げ微笑むその瞳は、右目は紫のまま、左目はあの出会った日に小さく灯っていた金色に輝いている
強く抱えているにもかかわらず、スルリと腕を抜け船べりへ駆け寄るゆぅ。後を追うキッドの耳にゆぅの呟きが聞こえる
「黒....ジュラキュール・ミホーク、手伝って」
ゆぅの短剣から繰り出された巨大な斬撃は高波を海から切り離す
船が通れるようになった代わりに、支えを失った壁のような波がこちらに倒れてくる
「ちょっと借りるわよ、エドワード・ニューゲート」
左手を握りしめ突き出すと、小さな振動が空気を伝っていき、ぶつかった水の壁がはじける。壁への直撃はなくなったが、小さくなった大量の海水は重力に引かれ次々に落ち始める
すると頭上を覆うように鎖が一気に広がり、船に落ちるほとんどの海水を吸い込むように受け止める。周りに落ちた水の衝撃で大きく揺れる船
鎖がゆぅの手に収まると同時に、荒波を抜け船の揺れは収まり湧き上がる歓声
ゆぅは力なくキッドの腕の中に崩れ落ちる
「ゆぅっ!」
血の気のない顔を薄いラベンダー色に戻った髪が覆った
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