海の青と月の気持ち 〜 JOKER
見つめる人影
日付も変わろうという頃。俺達の船の前で様子を伺ういくつもの人影を見つけ、腰の得物に手が伸びる
「何をやってるんだ、お前達は」
言葉と共に出たのはため息。返されたのは「シーッ!」と口に指を当てている仲間達の顔。敵船に忍び込むような緊張感。いや、それ以上か
「頭とゆぅが仲良く飲んでるらしいんだ。お前もソーッと上がれよ、キラー。ソーッとだ!」
まったく、俺を誰だと思ってる。仮にも「殺戮武人」の通り名を持つ男だぞ......気配を消すなんて朝メシ前だ
甲板に上がり、物陰から2人を見る俺達。結局、全員集合しているのはどういったわけか....たいした人望だな、キッド
しかし、つまらないな。手も繋がなければ、『キッドくん』と甘える様子もない。飲んで笑って、飲んで小突いて、飲んで叩いて、飲んで....普通じゃないか!その樽の陰に隠れてとか、なんだかんだしないのかっ?
「お?コレ、うめぇぞ?」
ツマミを一つ掴み、あーんと開けたゆぅの口に放りこむキッド
--そうだっ!そういうの!
「ホントだ。こっちのコレも結構そのお酒に合うと思うよ?」
ゆぅの摘んだローストビーフをその指ごと咥えるキッド
「ソースがうめぇんだろ?」とゆぅの手を掴み指に滴るものを舐め上げるキッドに、「こらこら」と笑うゆぅ
--お前たち、「こらこら」はコッチのセリフだぞ!
--って、キラーの幻聴が聞こえるぜ....くそぅ、騒ぎてぇっ
物陰で頷き合う男たちが視線を戻すと、先ほどの体勢のまま見つめ合いただならぬ雰囲気の2人が目に入り、息を飲む者、唾を飲み込む者....こちらの動きも止まる
手の甲にそっと口づけるキッド
二度、三度....その唇は次第にゆぅの腕を上っていく
キッドを見つめ続けるゆぅ
肘までたどり着いたキッドの口が開き、赤い舌が腕をなぞり上げてゆく
登りきった肩に一つ口づけを落として顔を上げたキッドの至近距離に、変わらず見つめ続けるゆぅの顔。どちらからともなく額をコツリと合わせる
「ゆぅ....俺もヤりてぇ」
しばらく見つめあった後、キッドはそう呟くとゆぅの肩に頭を乗せ、深いため息を吐いた
--やっばっ!いいの?俺達ここにいて?
--今さらどこにも行けねェよっ!どーするよ、始めちまったら!
--むしろヤり始めてるんじゃないのか、あれは
--ツッコミ入れてる場合じゃねェぞ、キラー!見つかったら殺される!
ゆぅはキッドの頭にそっと手を乗せる。しばらく撫で続けると、ポツリと呟いた
「もう....十分待ったんじゃない?」
「お前はいいのか、ゆぅ?」
顔を上げ、正面からゆぅを見据えるキッド。真剣なその表情にゆぅは顔を俯かせる
「アタシは、とっくに....って言うか、もう、こんな気持ち、抑え、きれな....」
そう言ってキッドの胸に顔をうずめると、ゆぅは小さく肩を震わせた。キッドは左腕でゆぅの腰を抱き寄せる
「もう、我慢は終わりでいい」
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